Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

評価-★★★★☆(大満足)

悪魔物語・運命の卵

チャトウィンの『どうして僕はこんなところに』、そこからミリマノフの『ロシア・アヴァンギャルドと20世紀の美的革命』を読み、いま、ロシアが熱い。余談だが以前友人が同じことを言おうとして「今、ロシアの小説が熱――どう見てもロシアの冬は長く厳しい」…

ロシア・アヴァンギャルドと20世紀の美的革命

ブルース・チャトウィンの『どうして僕はこんなところに』に読みふけって以来、ずっと気になっていた「ロシア・アヴァンギャルド」と呼ばれる芸術運動について書かれた本。ロシア・アヴァンギャルドを芸術史上に位置づけた画期的な一冊。 ロシア・アヴァンギ…

どうして僕はこんなところに

今月頭に読んだ『ウッツ男爵』があまりにおもしろかったので、もっとほかのも読んでみたいと思い手に取ったブルース・チャトウィンの作品集。2012年刊行だというのに残念ながらすでに絶版になってしまっているが、まだ在庫している書店を見つけられたので、…

ウッツ男爵

職場にて、入荷したばかりの新刊を整理している最中に目にとまった一冊。最近ちびちびと読んでいるある本のなかで、チャトウィンの名を目にすることが複数回あり、しかも翻訳者が池内紀だったので(英文学なのに!)、運命を感じて手に取った。帯にはこう書…

ジョカストとやせ猫

ワールドカップなどを言い訳に本を手に取らない日々が長く続き、その後仕事が忙しくなってしまったため、文学とは控えめに言ってもまったく無縁な生活をしばらく送っていた。そんなある日、といっても一昨日のことだが、今すぐ小説を読まなければ自分はおか…

そして誰もいなくなった

仕事がやけに忙しかったりして、リズム良く本を読み進められずにいるようなとき、一気呵成に読める本が無性に恋しくなる。言うなれば、エンタテイメントとしての小説にどっぷり漬かりたくなるのだ。続きが気になって、思わず夜更かししてしまうような本なら…

銀河ヒッチハイク・ガイド

次に記事にしようと思っている本がいつまでたっても読み終わらないので、すこし前に読んだ本を採りあげることにした。リチャード・ドーキンスを読んでいたころに読みたくなった本の一冊で、SFの世界を舞台に英国ユーモアを爆発させたダグラス・アダムスの出…

リヒテンベルク先生の控え帖

二ヶ月ほどかけてショーペンハウアーの『読書について』を何度も読んでいたら、彼が頻繁に引用する作家たちの名前をリストアップできるようになっていた。ホラティウス、アリストテレス、セネカ、そしてリヒテンベルクである。最初の三人はギリシア・ローマ…

黒蜥蜴

またしても一ヶ月が経ってしまい、気づけば年が変わろうとしている。本を読んでいないわけではなく、むしろ記事を書くための時間すら惜しんで、かつてない勢いで読み漁っているのだ。目の前にはすでに三十冊ほど、読み終えたまま印象を書き留めていない本が…

チャイコフスキー・コンクール

ずいぶん長いあいだ更新をさぼっていたおかげで、じつにたくさんの本が読めた。あるひとりの作家やテーマなどについて熱心になっているときは、つまらない記事などを書いて自分の気持ちを整理してしまうより、時間を無駄にすることなく、情熱がつづくかぎり…

田園交響楽

先日の『クロイツェル・ソナタ』に引き続き、青柳いづみこの『六本指のゴルトベルク』に紹介されていて、どうしようもなく読みたくなった本。さすがは神西清、文字の大きさだけを変えつづける新潮文庫の海外文学のなかにあって、すこしも訳文が古びていない…

クロイツェル・ソナタ/悪魔

青柳いづみこの『六本指のゴルトベルク』で紹介されていて、どうしようもなく読みたくなった本、そのいち。19世紀のロシア文学を読むのはじつに久しぶりのことだったので、ページを開く前からとてもわくわくした。 クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫) 作…

ふふふん へへへん ぽん!

先日訃報に接したばかりの、モーリス・センダックの作品。江國香織の『絵本を抱えて部屋のすみへ』に紹介されていて、読みたくなったもの。 ふふふんへへへんぽん!?もっときっといいことある 作者: モーリスセンダック,Maurice Sendak,神宮輝夫 出版社/メー…

サリー・マーラ全集

1947年の『皆いつも女に甘すぎる』と1950年の『サリー・マーラの日記』をまとめあげた1962年版『サリー・マーラ全集』。そのときに付け加えられた「序文」と、「もっと内密なサリー」について。 サリー・マーラ全集 (レーモン・クノー・コレクション) 作者: …

性についての探究

アンリ・カルティエ=ブレッソンのエッセイ『こころの眼』に登場したアンドレ・ブルトンの姿を見て、思い出した一冊。シュルレアリストたちが性について語り合った記録である。 性についての探究 作者: アンドレブルトン,野崎歓 出版社/メーカー: 白水社 発…

水都幻談

先日古本屋巡りをしていたら、フランス文学者である窪田般彌のエッセイ集に出会った。『カザノヴァ回想録』を代表作とする訳者だけあって、ヴェネツィアに関するたくさんのことが語られている一冊だ。そこに、レニエの名前もあった。「お、レニエの本、たし…

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話

先日『ムッシュー・テスト』と果たした喜ばしい再会を機に、手に取った一冊。プラトンを範にとった、ヴァレリーによる三篇の対話篇。 エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫) 作者: ポールヴァレリー,Paul Val´ery,清水徹 出版社/メーカー: 岩…

本当はちがうんだ日記

岸本佐知子の『気になる部分』と同様、読書に疲れたときに読んでいた一冊。先日『短歌の友人』を読んで以来ずっと気になっていた、穂村弘のエッセイ集。 本当はちがうんだ日記 (集英社文庫) 作者: 穂村弘 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2008/09 メディア:…

物の本質について

アナトール・フランスは『神々は渇く』で、ルキアノスは『遊女の対話』で、さらにはモンテーニュは『エセー』でこぞって礼讃していた、古代ローマのラテン語黎明期に書かれた、一篇の叙事詩。神保町で発見し、一ヶ月ほどかけてゆっくりと読んだ。 物の本質に…

ヘッセの読書術

最近、読書という行為そのものを主題にした書物をたくさん読んでいる。その最中に思い出した、ずっと昔に読んだ一冊。詳しく内容を覚えている部分もいくつかあったが、とても楽しい再読となった。 ヘッセの読書術 作者: ヘルマンヘッセ,フォルカーミヒェルス…

愛書狂

先日の『フランスの愛書家たち』に引き続き、喜び勇んで手に取った愛書家のための書物。とはいえこちらは奢覇都館の刊行物ではなく、それよりも以前の、白水社のもの。 愛書狂 (1980年) 作者: 生田耕作 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1980/12 メディア: ?…

和子の部屋

友人に魅力を熱弁されたのがきっかけで手に取った、阿部和重の対談集。7月末に刊行されたばかりの、『小説トリッパー』にて連載されていたコラムをまとめたもの。 和子の部屋 小説家のための人生相談 作者: 阿部和重 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: …

フランスの愛書家たち

ずっと以前に購入して読まずにいたのを、たまたま本棚の整理をしていたら見つけたので、嬉々として手に取ってみた。そしてあっというまに読み終えた。 愛書狂 (平凡社ライブラリー) 作者: G.フローベール,Ch.ノディエ,Ch.アスリノー,A.ラング,A.デュマ,Gusta…

尾崎放哉句集

短歌に興味を持ったことで、俳句という文化にも関心が向きはじめている。そこで思い出した、尾崎放哉。じつは数年前にも読んでいたのだが、そのときには文章にしなかったので、良い機会だと思って再読してみた。 尾崎放哉句集 (岩波文庫) 作者: 池内紀 出版…

エセー1

死ぬまでに絶対に読みたいと思っている本がいくつかある。いや、じつはいくつもある。そのリストには古典に数えられている作品がほとんどすべて入っていて、いっこうに短くなる気配を見せないどころか、日に日に肥大化してきているのだが、わたしの方針とし…

死刑囚最後の日

プラトンを読んでいたときに思い出した一冊。すでに部分的にはフランス語で読んでいたのだが、最後まで読みたくなったので手に取った。 死刑囚最後の日 (岩波文庫 赤 531-8) 作者: ヴィクトル・ユーゴー,豊島与志雄 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1982/…

ソクラテスの弁明

先日『プロタゴラス』を読んで、前にプラトンを読んだのがもうずいぶん昔のことのように思われたので、本棚から学生時代に読んだ一冊を取りだしてきて、再読した。 ソクラテスの弁明ほか (中公クラシックス (W14)) 作者: プラトン,田中美知太郎,藤沢令夫 出…

父の詫び状

手に取ったきっかけは、少しばかり前にNHK・BSでやっていた「猫を愛した芸術家たち」という特別番組だった。四夜連続で放送され、日ごとに違った芸術家が取り上げられていて、そのうちの一回が向田邦子だったのだ。ちなみにほかの三人は内田百閒、夏目漱石、…

夕鶴・彦一ばなし

日本に帰ってきてからというもの、むさぼるように日本文学を読んでいる。といっても、それほど冊数を読んだわけではなく、すでに読んだことのある短篇作品を読み返したり、気の向くままに長篇を拾い読みしているだけなのだが。そんな気安さが、とても心地よ…

嘔吐

パリのジュンク堂で定価の二倍以上の金額を出してまで手に入れた一冊。たいして厚い本でもないのに、ようやく読み終えたのは日本に帰国してからのことだった。 嘔吐 新訳 作者: J‐P・サルトル,鈴木道彦 出版社/メーカー: 人文書院 発売日: 2010/07/20 メディ…