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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

木曜日だった男

以前から気になっていた一冊が光文社古典新訳文庫から発売されたと聞き、早速手に取ってみた。 

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

 

ギルバート・キース・チェスタトン南條竹則訳)『木曜日だった男――一つの悪夢』光文社古典新訳文庫、2008年。


どれだけ面白い本なのか、内容を包み隠さず語ってしまいたいほどだ。だがこの作品を訳してきた人々が既に書いている通り、殊にこの小説に関しては、それは読者の興味を削ぐだけの愚行に終始してしまうだろう。

内容に触れないように特徴を挙げると、推理小説のような謎解きに近い要素もあり、冒険小説のような疾走感があり、そして何より文章表現の一つ一つがたまらなく面白い。

「僕は酔ってないとしたら、狂ってるんだ。でも、そのどちらの状態でも紳士らしく振舞えるつもりだがね」(35ページ)

「彼は物語や詩や激烈な論文を山程書いて、新聞各社とその紙屑籠にたえまなく送りつけた」(72ページ)

「全体の醜悪な印象は、どこかの酔っ払った洒落者が死骸に自分の服を着せたかのようだった」(102ページ)

展開がある程度予想できても、必ずそれを上回る回答が返ってくる安心感。
これは、面白い。オススメ。

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)