Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

どちらでもいい

今月文庫化された、ハンガリーからの亡命作家、アゴタ・クリストフによる短編集。

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)

 

アゴタ・クリストフ(堀茂樹訳)『どちらでもいい』ハヤカワepi文庫、2008年。


ハードカバー版の25編に加えて、初訳の一編が収められている。短編集といってもそれぞれの長さはまちまちで、ショート・ショートとしか呼べないものもあり、内容もエッセイのようなものから限りなく詩に近いものまで多様である。
個人的には「ある労働者の死」、「間違い電話」、「田園」が気に入った。

彼女は絶望にとりつかれている。それ故、彼女の語る言葉は、最早皮肉ですらなくなっている。三部作を越えることができないという明らかな事実が、彼女の眼前に立ちはだかっているのがありありと感じられる。それほどに、質が低いのだ。『昨日』を読んだ時にも感じたことだが、我々はむしろ『悪童日記』を一種の奇跡として捉えるべきだったのかもしれない。

それでも、やはり他の作家とは全く異なる独特な世界は健在している。『悪童日記』と同じ衝撃は望むべくもないが、あの世界観にもう一度足を踏み入れたいのなら、手に取ってみてもいいかもしれない。

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)