恥辱
ブッカー賞にノーベル賞を受賞した、21世紀の文学の旗手クッツェー。史上初の二作目のブッカー賞受賞の栄誉に浴した作品。
- 作者: J.M.クッツェー,J.M. Coetzee,鴻巣友季子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/07
- メディア: 文庫
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ジョン・マクスウェル・クッツェー(鴻巣友季子訳)『恥辱』ハヤカワepi文庫、2007年。
ただの男の転落人生を描いた小説と読むことも出来れば、南アフリカの惨状をえぐった批評とも読むことができる。読みやすさの中に隠れたアレゴリーの数々が この作品を単なる小説でなくしている。
「彼は健康であり、頭脳明晰である。職業はというと学者、少なくとも以前は学者だった。いまも学者かたぎが、ときおり心の奥に顔を出す。自分の収入に無理のない、性分に無理のない、感情に無理のない暮らしをしている。では、幸せか? おおむねの基準ではそうだろうと、自分では思っている。とはいえ、『オイディプス』の最終コーラスはいまも忘れていない。“死するまでひとを幸福と決めるなかれ”」(7ページ)
様々な文献からの引用が、作品全体にウィットを滲ませている。それでいて、読みやすい。
「なさぬ望みを胸に抱えているより、みどりごはその揺籃で殺めよ」(108ページ)
重すぎるテーマに淡々とした文体が光る。娼婦との逢瀬、教え子との不祥事、そしてレイプ。南アフリカの中心と周縁の隔たりが、まざまざと描き出されている。アーヴィングが『ガープの世界』で描いたような、官能や性犯罪とはまた違う。
「分別をもつより大切なことがこの世には多々ある」(77ページ)
確かに、旗手だ。
他の作品にも触れたくなった。
- 作者: J.M.クッツェー,J.M. Coetzee,鴻巣友季子
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