Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

動物農場

成し遂げられた豚たちの革命、そこから生まれくるもの。

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)

 

ジョージ・オーウェル(高畠文夫訳)『動物農場』角川文庫、1972年。


「人間は生産せずに消費する唯一の動物である」(11ページ)

 

人間に反旗を翻した動物たち、彼らによって運営されていく「動物農場」、そして変質していく当初の目的。描写の中に浮かんでくるのは、明確な批判、ことにファシズムに対する批判だ。

正直、もう少しユーモラスな作品を期待していた。動物たちに君臨するのは豚、そして独裁者となる豚の名がナポレオンなのだから、僕の期待もそこまで突拍子のないものでもないだろう。しかし、実際に描かれていたのは、笑いの要素など一つもない、豚たちの圧政であり、その批判だった。あるいはこれは学問として読むのなら面白い考察となったかもしれない。これを小説と読んでいいのだろうか。

ただ、同時に収録されていた二つの短編、「象を射つ」と「貧しいものの最期」は、どちらも読みやすく文学的だった。

「たとえ大きすぎて顔に合わない仮面でも、かぶっているうちに、やがて顔の方が大きくなって、それにぴったりと合うようになるのだ」(160ページ)

「ともかく、自分のベッドで死ぬというのはすばらしいことなのだ。もっとも、不慮の死を遂げるのは、もっとすばらしいことかもしれないけれど」(199~200ページ)

評価の難しい本だ。開高健の解説(?)を引用しよう。

「文学作品のなかで政治を扱うのは音楽会にいって演奏を聞いているさなかに耳もとで轟然一発ピストルをやられるようなものだとスタンダールが書いているが、政治を扱って成功した作品は、恋を扱って成功した作品の数にくらべてお話にならないくらいわずかである。『動物農場』はその少数のなかで抜群の秀作である」(205ページ)

僕にはスタンダールが正しいとしか思えない。これから変わるのかもしれないが、手放しに絶賛する気は全く起きなかった。

稀有な本。これだけは間違いない。

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)