Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

セールスマンの死

一昨年創刊されたハヤカワ演劇文庫の、記念すべき第一期配本。 

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

 

アーサー・ミラー(倉橋健訳)『セールスマンの死』ハヤカワ演劇文庫、2006年。


テネシー・ウィリアムズと双璧を成すと言われる劇作家アーサー・ミラーの代表作。喜劇めいた悲劇のように感じたが、あるいは悲劇めいた喜劇なのかもしれない。

「考えてみるとだね、一生働きつづけてこの家の支払いをすませ、やっと自分のものになると、誰も住むものはいないんだな」(16ページ)

容易に想像できる情景の中に、狂気が溢れている。空想めいたところが一つもなく、現実味溢れる世界の中で人々が狂気にとりつかれていく。

「つまらん生きかたさ。暑い夏の朝、地下鉄にゆられ、在庫調べをしたり、電話をかけたり、売ったり買ったりで、一生を送ってしまう。二週間の休暇のために、一年前五十週間を身を粉にして働くわけだ。みんなシャツをぬぎ、戸外でのびのびしたいと願いながら」(27ページ)

いい話ではないが、単なる他人事でもないだろう。侘しい気持ちになった。

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)