白魔
光文社古典新訳文庫、今月の新刊。南條竹則が訳すというだけで、一月前から楽しみにしていた。
- 作者: アーサーマッケン,Arthur Machen,南條竹則
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/02
- メディア: 文庫
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アーサー・マッケン(南條竹則訳)『白魔』光文社古典新訳文庫、2009年。
チェスタトンの『木曜日だった男』、スティーヴンスンの『新アラビア夜話』と、個人的には最高レベルの文学を紹介してくれた南條竹則の訳とあって、『白魔』も読む前から物凄い期待を背負わされていた。結論から言って、随分毛色の異なる作品だった。チェスタトンやスティーヴンスンの「幻想」の側面に照射を当てるなら、マッケンも同じように並べることができたかもしれないが、私はチェスタトンらの「疾走感」とミステリー的なエンターテイメントの要素を期待していたのだ。読み始めてすぐさま、自分の態度を改めさせられた。
以下、収録作品。
★★☆「白魔」
★★☆「生活のかけら」
『翡翠の飾り』より
☆☆☆「薔薇園」
★☆☆「妖術」
☆☆☆「儀式」
短編集と言うよりも、中編二編プラスおまけの散文詩、という感じだった。日常と幻想の境界を極めて明確にすることで、かえってそれが曖昧になっている、という不思議な感覚。
「“悪”とは本質に於いて孤独なもの、ひとりぼっちの、独立した魂の情熱なんだよ。じっさい、ありきたりの殺人者は、殺人者であるというだけでは、真の意味での罪人ではけっしてない」(「白魔」より、14ページ)
「白魔」と「生活のかけら」はどちらも幻想文学に相違ないのだが、正反対の印象を与える作品だ。「魔導」への道と、「聖者」への道。その脱日常の過程は限りなく近い。
「我々はつねに、詩人は狂人だと信じている。あいにく、実際に精神病院に入っている詩人は稀だと統計が示しても、詩人はたいてい百日咳にかかっており、それは疑いなく、酩酊状態と同様、ささやかな狂気であるから、我々はそのことを知って心安まるのである」(「生活のかけら」より、217ページ)
マッケンによると、日常の外側に他の世界があって、実はその世界で起こっていることだけが、真実なのだ。
「この世にはただ一つの存在、ただ一つの知識、ただ一つの宗教しかない。すなわち、外界は色さまざまな影にすぎず、真実を覆いもすれば顕わしもするということだ」(「薔薇園」より、249ページ)
恐怖を感じた。お化けが出てきて恐い、といった恐怖ではない。石がニヤニヤ笑っていたりするのだ。日常の外にある世界。また読みたくなる気がする。
- 作者: アーサーマッケン,Arthur Machen,南條竹則
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<読みたくなった本>
泉鏡花『草迷宮』
→マッケンと鏡花は同じ文脈で語られることが多いらしい。
南條竹則編『イギリス恐怖小説傑作選』
→ちくま文庫。マッケンも含まれている。
マッケン『パンの大神』
→日本で一番読まれているマッケンの短編。
世界大ロマン全集〈第24巻〉怪奇小説傑作集 第1 (1957年)
- 作者: ブルワー・リットン,ヘンリ・ゼイムス,M・R・ゼイムス,W・W・ジャコブズ,アーサー・マッケン,E・F・ベンスン,アルジャーノン・ブラックウッド,W・F・ハーヴィー,江戸川乱歩,平井呈一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1957/08/20
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