宇宙舟歌
『オデュッセイア』を読んでいた私にSFを愛する友人が勧めてくれた一冊。ラファティによって書かれた宇宙版『オデュッセイア』。
- 作者: R.A.ラファティ,R.A. Lafferty,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2005/10
- メディア: 単行本
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R・A・ラファティ(柳下毅一郎訳)『宇宙舟歌』国書刊行会、2005年。
十年に及ぶ戦争を終えて、男たちは家路についた。宇宙船団の大船長ロードストラムは様々な星に立ち寄りながら、家を目指して行く。
『オデュッセイア』を読んだ人なら確実に吹き出してしまうような描写が多く、電車の中では読めない。冒頭に見られるそもそもの戦争が見事にはしょられていて、一行は『オデュッセイア』で聞き覚えのある土地で辛酸を舐めさせられる。
まず、ロトパゴイ。オデュッセウスが最初に上陸する国の名前である。ここの主食であるロートスを食べた者は誰でも、故郷を忘れてこの地に留まろうと思ってしまう(『オデュッセイア』第九歌)。
次にはライストリュゴネス人の国。ここは『オデュッセイア』ではほとんど語られておらず、オデュッセウスが立ち寄って部下の多くを食われた、ということくらいしかわからない。キュクロプスに似た巨人族の国である(『オデュッセイア』第十歌)。
このように『オデュッセイア』の世界観を踏襲しながら、ロードストラムたちは進んでいく。ロトパゴイやライストリュゴネスは『オデュッセイア』の中でも特に説明の少ない箇所だ。その分、物語としての完成度が高い気がする。ラファティの想像力が存分に発揮されていて勢いもある。ライストリュゴネスの後にポリュペモス(『オデュッセイア』ではキュクロプスの一人の名)に到着したり、進行まで『オデュッセイア』の通りというわけではない。ルーレッテンヴェルトという国は『オデュッセイア』には存在しないし、「どうでもいい世界」と呼ばれるケントロンはギリシャ文学の中でもヘラクレス伝説の一章だ。これには震えた。『オデュッセイア』を既に読んでいる人こそ楽しめる内容だが、ストーリーの焼き直しで退屈させられることはない。本当に『オデュッセイア』通りに進行したら、途中で飽きてしまったかもしれない。その辺りの仕掛けに関しても、ラファティには余念がない。
「未来にも神話は存在するのだろうか、と昔の人間は訊ねたものである。すべてが科学になってしまった後にも神話はあるのだろうか? 大いなる勲は叙事詩となるのか、それともコンピュータ・プログラムによってのみ語られるのだろうか?」(4ページ)
『オデュッセイア』以外にもラブレーやチェスタトンの名前が本文に登場したり、北欧神話が混ざっていたりと、かなり楽しい。このあたりの元ネタは解説に詳述されているが、その他にも書こうと思えばいくらでも書ける気がする。ラブレーとチェスタトンを愛するSF作家。当然、一筋縄ではいかない。
「「本当にすべての細部まで見てなくちゃならないのかい?」
「そうだ。あんただって細部のひとつなんだよ、ロードストラム。もし一瞬でもあんたが俺の心の中になかったら、あんたはいなくなっちまう。俺が目を向けることで、俺はすべてのものをあらしめている。知覚されないかぎり何一つ存在できない。もし一瞬でも知覚をしくじると、それは永遠に消え去ってしまう」」(120ページ)
読書の楽しさが溢れている本。ラファティはニヤニヤしながら書いただろうなぁ、と思える。登場人物それぞれのキャラクターが立っていて、本文中に説明が無くても、どの人物がその時どんな顔をしているか想像がつく。それは良い小説の証拠である。
「さあ、間違った方向に向けて家に帰る者どもよ、進め!」(8ページ)
確かに、踊り出したくなるね。次は短編集を読んでみるよ。
- 作者: R.A.ラファティ,R.A. Lafferty,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2005/10
- メディア: 単行本
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<読みたくなった本>
ラファティ『九百人のお祖母さん』
→素晴らしい表紙・タイトルの、ラファティの短編集。翻訳の多くが絶版になっている中で、今でも手に入る貴重な一冊。
スウィフト『ガリヴァ旅行記』
→色々な国を旅する、と言えばこれ。
ヴェルヌ『八十日間世界一周』
→今月の光文社古典新訳文庫の新刊。これを機にSFを勉強しなおしたいところ。
- 作者: ジュール・ヴェルヌ,Jules Verne,高野優
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: 文庫
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- 作者: ジュールヴェルヌ,Jules Verne,高野優
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/05/12
- メディア: 文庫
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