ラビット病
1990年に刊行された、普段のものとはかなり違った趣の山田詠美。
きっかり二時間で読み終わってしまった。いつもの切なさはどこにもなく、ひたすら明るいコミカル恋愛小説だ。「!」や「?」も頻出し、どこまでも軽い。
恋愛小説、というよりも、何だか他人のノロケを延々と聞かされている気分になる。一言で片付けてしまえば所謂「バカップル」の話。パートナーのいる人が読めば、きっとその相手に甘えたくなるだろう。僕の場合「俺は一体何を読んでいるんだ」と自問してしまった。相手のいない方は読まない方が良いです。空しくなります。
「ゆりさん、あなたは、始末におえないお金持なんですってね。おまけに、男を昼は馬車馬のように夜は種馬のようにこき使うとか」(36~37ページ)
短篇連作のように進む中、「すあまのこども」の章の出来が突出していた。ゆりがすあまをおばあちゃんから貰い、ロバートとの養子にする話。
「うん。でも、ゆりちゃんが、このすあまたちを可愛がりたいんなら、しばらく面倒を見ようじゃないか。すあまブラザーズを少しの間でも保護してあげようじゃないか」(137ページ)
馬鹿馬鹿しいながらも、何だか愛しい章だ。言葉が軽すぎて中々響いてこないのはご愛嬌。この小説が広く読まれれば、世の中の色々な物事がもっと円満に運ぶ気がする。
山田詠美らしくない異色の中篇。作家本人の可愛らしい感情を見ている気がして、微笑ましいと同時に気恥ずかしくなる。普段重いものばかり読んでいる分、楽しめた。多分読み返すことはないけれど、ちょっと好き。
<読みたくなった本>
芥川龍之介「トロッコ」
→名前が出てくるだけ。