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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

見知らぬ島への扉

『白の闇』が予想外に面白かったため、手にとってみた二冊目のサラマーゴ。インターネットで注文したため、届いた時にはあまりの薄さに仰天した。

見知らぬ島への扉

見知らぬ島への扉

 

ジョゼ・サラマーゴ(黒木三世訳)『見知らぬ島への扉』アーティストハウス、2001年。


『白の闇』にも見られた寓話性が前面に押し出された小品だ。まだ誰にも知られていない島を探しに行くために、ある男が王様に船を要求するところから物語が始まる。

「ばかげている、知らない島など、ひとつも残っておらんではないか
 誰からおききになったのですか、陛下、知らない島がないなんて
 全部地図に載っておる
 知っている島だけが地図に載っているのです
 おまえが探しにいこうとしているその知らない島とは、いったいどういうものなのか
 それにおこたえできるのなら、もう知らない島ではないのです」(21~22ページ)

一見自己啓発書のように売り出されているのが腹立たしいが、文章の癖などは完全にサラマーゴのものだ。固有名詞は登場しないし、会話文にも括弧はない。女性が強いのもサラマーゴの文学の特徴の一つだ。

「まるで水夫みたいな口のきき方じゃないか、水夫でもないくせに
 もしぼくの口ぶりが水夫のようなら、ぼくは水夫にちがいない」(42ページ)

船を入手した男はついてきた掃除女を伴い、航海の準備をはじめる。その過程で船室において男が見た夢に、この物語の結末とも言える「見知らぬ島」の秘密が隠されているのだ。航海が始まることはなく、物語は幕切れとなる。

「好意は最高の所有の形、所有は最低の好意の形なんだ」(53ページ)

物事を外から見ることで、初めて見つかるものがある。内側にいては決して見られないものが、外の世界にはあるのだ。

「自分から離れてみないと、自分のことは発見できないものなんだ」(68ページ)

「島を見たいのなら、その島を離れなければならない、自分のことを知るには、自分から自由にならなければならない」(70ページ)

正直薄すぎて物足りない気分だ。サラマーゴらしさは随所に感じられたが、太字が多かったり段組がスカスカだったりと、読んでいて苛々する点も多い。これが一冊目だったらサラマーゴに興味を持つには至らなかっただろうな、と思う。とはいえそれは彼に非があるわけではない。他の作品に期待したい。

見知らぬ島への扉

見知らぬ島への扉