Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

Le C. V. de Dieu

 2008年にフェミナ賞を受賞したことも記憶に新しい、ジャン=ルイ・フルニエのユーモア小説。フェミナ賞の受賞作『Où on va, papa ?』がいかにも重たそうなテーマを扱っていたので敬遠していたのだが、この『Le C. V. de Dieu』はタイトルからして既にユーモア色がぷんぷんと匂ってきたので、手を伸ばしてみた。

Le CV de Dieu (Ldp Litterature)

Le CV de Dieu (Ldp Litterature)

 

Jean-Louis Fournier, Le C. V. de Dieu, Éditions Stock, Le Livre de Poche n°31977, 2008.


 フランス語で「神さま」は「Dieu」、男性名詞だが基本的に冠詞はつけない。「Le C. V. 」は「le curriculum vitae」というラテン語の略語で、意味は「履歴書」。つまり「神さまの履歴書」というタイトルの本である。初版はスイユ社(Éditions du Seuil)、1995年。

「Dieu ne croyait plus en Dieu.」(p.7)
「神さまはもう神さまのことを信じられなかった」

 空も大地も動物たちも人間たちも作りおえた神さまは、天空で退屈していた。自分のことを信じられなくなるほどの憂鬱を抱え、とうとう彼は仕事を探すことを決心する。そして履歴書と動機書を送ってみたところ、ある企業の人事部長から呼び出しがかかる。面接をこなすために、彼は地上に降りた。

「— Votre date de naissance?
 — Né avant J.-C.
 Le directeur écrit consciencieusement.
 — Domicile?
 — Partout.
 — Vous pouvez préciser?
 — J'ai un pied au ciel et un pied à Terre.
 — Le grand écart.
 Il a dit cela avec un petit sourire.
 — Situation de famille?
 — Un fils majeur.
 — À charge?
 — Lourde charge, dit Dieu avec tristesse.(p.14)
「「生年月日は?」
 「紀元前です」
 人事部長は忠実に書きこむ。
 「住所は?」
 「どこでも」
 「明確にして頂けますか?」
 「片足は天空に、もう片方は地上に置いています」
 「かなり距離がありますね」
 人事部長は微笑みながら言った。
 「家族構成は?」
 「成人した息子が一人」
 「扶養家族ですか?」
 「ええ、出費がかさみます」神さまは悲しそうに言う。」

 本編のほとんどが人事部長との面接の様子である。まったく尻込みすることのない人事部長の鋭い質問、それを真面目に答える妙にファンシーな神さま。カトリックの国でこんなもの書いて大丈夫なのだろうかと、ときどき不安にさえなる。

「— C'est vous qui avez inventé l'eau?
 — Oui.
 — À quelle occasion?
 — J'avais soif.」(p.49)
「「水を発明したのはあなたですか?」
 「はい」
 「どんな理由で?」
 「喉が渇いていたんです」」

「— Si c'était à refaire, au lieu de la Terre, vous savez ce que je leur ferais?
 — Non.
 — Un grand parking.
 — Vous êtes vraiment dur.(p.64)
「「やりなおすとしたら、地球の代わりに私が何をつくるかわかりますか?」
 「いいえ」
 「大きな駐車場です」
 「あなたはほんとうに厳しい人だ」」

面接の合間に挟まれている神さまへの「QUESTIONS PSYCHO」が面白い。直訳すれば「心理学的質問」だが、不自然なので「自己分析」と訳した。

「QUESTIONS PSYCHO
 4. Avez-vous une qualité qui n'appartient qu'à vous?
  Oui. Je suis phosphorescent.」(p.113)
「自己分析
 4.あなたにしかない長所はありますか?
    はい。蛍光性です。」

「7. Quelle serait pour vous la pire catastrophe?
   être chauve
  × perdre à la pétanque
   être excommunié
  Commentaire : Je suis déjà chauve.」(p.141)
「7.あなたにとっての最悪の事態は次の内どれ?
   はげること
  × ペタンクに負けること
   破門されること
  コメント:もうはげてます。」

人間を創造したことを心底後悔している神さまは、自分の前科を次々とさらけ出し、挙げ句の果てに面接に落ちる(しかも、書面で慇懃に断られる)。だが、天空に戻った彼は退屈をまぎらす新たな方策を思いつく。それは、この世の終わりを準備することだった。そして幕となる。

200ページに満たない、段組もゆるゆるの非常に薄い本である。神さまが面接を受ける、というこのアイディアだけで脱線することなく最後まで突っ走った感じ。それにしても、これを書いている最中は楽しかっただろうなあ、と思わせる箇所がいくつもあり、ページを開いている最中は笑顔が貼りついて離れない。

大変不遜だが、読んでいる最中に思い出したのはドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、イワンによる「大審問官」だった。キリストが地上に再臨し、大審問官はその遅すぎる再臨を咎める。神さまと面接官とを対比するのはちょっと強引かもしれないが。そこからヘッセの『デミアン』も思い浮かんだ。いずれにしてもファンシーさは欠片もない。ファンシーさを求めるのならブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』が、テーマからしても面白いかもしれない。

このジャン=ルイ・フルニエ、2005年に『Satané Dieu !』、直訳すると「悪魔のような神さま」という題の本を書いている。こちらもおそらく近日中に紹介することになると思う。

Le CV de Dieu (Ldp Litterature)

Le CV de Dieu (Ldp Litterature)