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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

戒厳令下チリ潜入記

久々です。
更新していない間にめちゃめちゃな量の本を読んだ気がするので、機を見て紹介していきます。

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)

 

ガブリエル・ガルシア=マルケス(後藤政子訳)『戒厳令下チリ潜入記』岩波新書(黄版)、1986年。


『愛と暴力の現代思想』『ネオリベ現代生活批判序説』などで度々引用されていて興味を持ち、近所のブックオフでたまたま見つけた本です。残念ながら現在では中古以外では入手する術がありません。

本書はピノチェト独裁政権の下で祖国チリに帰ることを全面的に禁止された映画監督ミゲル・リティンが、戒厳令下のチリをフィルムに収めるために祖国に密入国するという、非常に刺激的なノンフィクションルポルタージュです。

アジェンデの民主政権をクーデターによって打倒したピノチェトがネオリベラルな政策を推し進める過程で、チリがどのような変化を迎えたか、主観的な部分も多々あるものの、そういった事象を克明に記録しようとした男のドラマを、ラテンアメリカ文学を代表する作家ガルシア・マルケスが記述したものです。

ミゲル・リティンの予想に反し輝かしい繁栄を迎えた首都サンチアゴ、しかし確実に広がる経済格差。ピノチェト独裁政権の戒厳令下チリが示すものは新自由主義的政策の末路以外の何物でもありません。『ラテンアメリカは警告する』(新評論、2005年)という本や「日本のアルゼンチン化」という言葉があるように、ネオリベが早い段階で受け入れられたラテンアメリカの現状を再考することは現在の日本を省みる上で非常に有効であると痛感させられました。

ガルシア=マルケスは小説の時と違ってジャーナリストの文章をもってこの信じられないようなノンフィクションドラマを展開していきます。
非常に読みやすい上に、興味深い。オススメです。

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)