一杯の珈琲から
またしても「ご機嫌」な、ケストナーの作品。
エーリヒ・ケストナー(小松太郎訳)『一杯の珈琲から』創元推理文庫、1975年。
ケストナーらしさのふんだんに盛り込まれた、ケストナーらしくない作品。
これは『雪の中の三人男』、『消え失せた密画』と共に、「ユーモア三部作」として知られる大人のための娯楽小説である。
「この小説では主人公の幸福を脅す敵役は、人間ではなくて為替管理法である」(訳者あとがき、159ページ)。
「童心を失った卑しい大人たち」の完全な不在が、この小説をここまで幸福なものにしているのだろう。それはケストナーの描く通りに、素晴らしい世界なのかもしれない。