オリバー・ツイスト
「これは嘆きと試練と悲哀にみちた真実の物語なのだ」(304ページ)。
チャールズ・ディケンズ(中村能三訳)『オリバー・ツイスト』新潮文庫、1955年。
オリバー・ツイストの波乱の人生を追った、ディケンズ初期の作品。これを児童文学として挙げるのは好ましくないだろう。ディケンズ特有の精緻な描写が、絶大なる効果を以て我々を十九世紀のイギリスへと引き込んでいく。
脇役かと思われた登場人物たちが、最後まで重要な役割を果たす。名前を持った舞台俳優たちの行方は常に我々の前に現れ、それが物語を構成していく。
ディケンズの作品を絵画で喩えるなら、間違いなくフランドル派だ。細密描写の中に秘められた、メタファーとしての批判。そしてその中に時たま現れる、ロマン主義の名残り。
「これは嘆きと試練と悲哀にみちた真実の物語なのだ」。