Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

武器よさらば

光文社古典新訳文庫の先月の新刊。翻訳は児童文学などで名高い、金原瑞人。 

武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

 

アーネスト・ヘミングウェイ(金原瑞人訳)『武器よさらば』光文社古典新訳文庫、2007年。


初めてまともにヘミングウェイの作品を読んだ。過去に研究目的でパリについてのエッセイ『移動祝祭日』を手に取ったことはあったが、小説家ヘミングウェイに触れたのは今回が初めてだ。

すごく読みやすい。おそらくヘミングウェイ自身が読みやすい文章を書く作家であることに加えて、翻訳が金原瑞人だからだろう。何十年も前に書かれていることが俄かには信じがたいほど、すんなりと入ってくる。第一次大戦のイタリアを舞台に繰り広げられる物語は、ヘミングウェイという作家に対して抱かれがちな固定観念をあっさりと覆すほどに、ロマンチシズムに溢れている。

テーマは通俗的かもしれないし、技巧的であるわけでもない。彼は自分が主観的に見たものを、そのまま文章に写しているのだろう。生々しい。ヘミングウェイを表すのに、これほどの言葉はないかもしれない。

「わたしとしたことを、ほかの女の子としちゃだめ。わたしにいったこともいっちゃだめ。いい?」(下巻、288ページ)

センチメンタルで、ロマンティックで、生々しい。人間味に溢れている作家だからこそ、こんなにも容易く受け入れることができるのだろう。

武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

 
武器よさらば(下) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-2)

武器よさらば(下) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-2)