Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

父と子

19世紀のロシア文学を牽引した一人、ツルゲーネフの代表作。

父と子 (新潮文庫)

父と子 (新潮文庫)

 

イワン・セルゲーエヴィチ・ツルゲーネフ(工藤精一郎訳)『父と子』新潮文庫、1998年。


この本について語るには、まず出会いから始めなければならないだろう。
僕はこの本を、ある古本屋の主人から無料で頂いた。ちょうどジュール・ルナール全集の端本を手持ちの全てを投げ出して購入した時のことである。外の特価本ラックに無造作に置かれたこの本を購入するために店内に入り、そこでルナールを見つけてしまったのだ。手持ちが足りない旨を主人に話し、ルナールの全集だけを購入し、百円のこの本は次回まで諦めると伝えた。その時の手持ちがどれだけ少ないものだったかはお分かり頂けるだろう。彼はこの本を笑いながら僕に渡し、リピーターになることを条件におまけとして下さったのである。

そんな経緯から、この本は僕にとって特別な意味を持つこととなった。バザーロフにこれほどまでに心を惹かれるのは、あるいはそのためかもしれない。

歴史上初めての「ニヒリスト」であるバザーロフと、彼を取り巻く人々。登場人物の誰もが生き生きとしているのは、まるでオースティンやディケンズのようだ。
バザーロフの生き方は知識と意思の、思想と行動の究極的な融合を表している。彼があれほどまでにロマンチシズムを否定したにも関わらず、この作品は読み終えた今では非常にロマンティックなものに思える。

バザーロフは言った。「死は古い喜劇だが、一人一人には新しい姿で訪れる」(333ページ)。

この本を生涯忘れることはないだろう。掛け替えのない宝物となった。 

父と子 (新潮文庫)

父と子 (新潮文庫)

 

追記(2014年9月21日):今年の夏に帰国した折、記事中の古本屋に立ち寄ろうとしたところ、シャッターが降りていました。閉店してしまったのかと悲しい気持ちになり、調べてみたところ、改装工事中で年内には再開の予定とのことです。良かった。この古本屋というのは、吉祥寺のバサラブックスのことです。

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