デミアン
明暗二つの世界を揺れ動き、運命を求める男の物語。
ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)『デミアン』新潮文庫、1951年。
『車輪の下』に見られた緻密な風景描写の技巧は、ここでは人の内面を描くことに注がれている。
「ぼくたちは人間だ。ぼくたちは神々を作り、それと戦うのだ」(181ページ)
救いをもたらすのが神である必要はない。神は普遍の絶対的な善ではなく、同時に悪魔をも包含していなければならない。
「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない」(136ページ)
「運命のみを欲するものは、手本も理想もいとしいものも慰めとなるものも持たない。人々はほんとうはこういう道を歩まねばならないだろう」(193ページ)
暗い世界の破壊によって生まれるものは、必ずしも明るい世界ではない。それを甘受することが、即ち運命に導かれることなのかもしれない。
「大多数の人々の道は楽で、ぼくたちの道は苦しい。――しかしぼくたちは進もう」(169ページ)