シッダールタ
成道前の釈尊が悟りに至る過程を描いた、ヘッセの芸術。
ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)『シッダールタ』新潮文庫、1971年。
自己と本質を求めて繰り返される絶望と克己。『デミアン』においてシンクレールが求めたものが、別の口から語られている。
「川にとっては現在だけが存在する。過去という影も、未来という影も存在しない。(中略)少年シッダールタは、壮年シッダールタと老年シッダールタから、現実的なものによってではなく、影によって隔てられているにすぎなかった。シッダールタの前世も過去ではなかった。彼の死と、梵への復帰も未来ではなかった。何物も存在しなかった。何物も存在しないだろう。すべては存在する。すべては本質と現在を持っている」(114~115ページ)
未来はすべて、そこにある。
忘れられない本になった。