Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

世界の書店をたずねて

業界研究の一環として手に取った本。

世界の書店をたずねて―23カ国115書店紹介レポート

世界の書店をたずねて―23カ国115書店紹介レポート

 

能勢仁『世界の書店をたずねて』本の学校・郁文塾、2004年。


タイトルの通り、日本以外の各国の書店を紹介した本である。本の流通形態が異なれば、当然書店のあり方も変わってくる。様々な差異と共通点が見られ、非常に興味深かった。

ただ残念なことに元々が雑誌連載用に書かれたものであるため、一冊の本として読んだ時に勢いが足りない。様々な国の書店の特色が羅列された箇条書きの集合体になってしまっている。誤植も多い。

だが、それでも内容は良い。「世界の書店」というテーマで書かれた業界人が読むに値する本は、そうそう無い。文学の中で垣間見た空間が、専門的な視点から取り上げられているのは珍しい。写真が多いのも嬉しい。本文中の解説に書ききれなかった特色が、写真によって補われている。例えばローマのメルブックストアの写真で、お客様用のソファの真正面、手の届く範囲に新刊台と思しきローテーブルがあった(113ページ)。これは在庫量偏重主義の強い日本の書店では、中々見られない光景である。

再販制を持たない国、あるいは既に廃止されている国の書店のあり方は、非常に勉強になる。日本でも再販制撤廃が唱えられるようになって久しいが、この問題を真摯に受け止めている業界人は一体どのくらいいるのだろうか。書店の復権のためにも、考えなければならない問題である。

アメリカのボーダーズという書店の紹介もあった。このチェーンやイタリア資本の美術書専門店リッツォーリ書店はNYトレードセンタービルにも出店していたらしく、それまでは政治の問題としてしか捉えていなかった「9.11」のことを考えざるを得なかった(127ページ)。そこに居合わせた愛書家や書店員のことを想うと、政治の話などしていられない。本文中ではわずか6行の説明で、やはりそれぞれ店舗の紹介に特化しており、思想的な偏重は全く見られなかった。著者の良識を感じた。

一気に読もうとすると間延びしてしまう感があるが、そういう書き方でなければ成立しなかったであろう豊富な情報が詰め込まれた本。一読したことで様々な興味が湧いた。

世界の書店をたずねて―23カ国115書店紹介レポート

世界の書店をたずねて―23カ国115書店紹介レポート