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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

イワンのばか

トルストイによる、様々な民話や伝説の再話集。

トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)

トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)

 

レフ・ニコラエヴィッチ・トルストイ(中村白葉訳)『トルストイ民話集 イワンのばか』岩波文庫、1932年。


芥川龍之介を読んでいるかの如く、ストーリーの面白さと平易な表現によって押し流されるようにページが進んでいく。道徳教本のような形態を呈しているのも、何となく芥川を彷彿させる。宗教性という要素を完全に度外視した上での意見ではあるが、彼はこれがやりたかったのかもしれない。

広く知られた名前の割に、意外と読んでいる人の少ない「イワンのばか」を筆頭に、九つの短篇が収められている。

解説によると、トルストイは芸術の条件の一つに「一般の大衆によく理解されること」を挙げていた。そして彼は再話という名の下の純然たる創作において、それを実践したのである。

一つ一つの作品に、何とも言えぬ深みがある。芥川のような、ストーリーの面白い作品が好きな人には是非手に取ってもらいたい。芸術性を意識して書かれた平易な表現、そのもたらすスピードを体感してほしい。

トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)

トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)