ポトマック
小説なのかどうかもわからない。散文詩と呼ぶのがが一番適当なように思える。
- 作者: ジャンコクトー,Jean Cocteau,渋澤龍彦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2000/02
- メディア: 文庫
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ジャン・コクトー(澁澤龍彦訳)『ポトマック』河出文庫、2000年。
「僕はもぐらになって仕事をした。「僕は『ラ・マルセイエーズ』ないしは『恋の愉楽』を書くことができたかもしれなかった。それなのに、僕はこの本を書いている」という文句は一つの諦めをあらわしている」(11ページ)
不思議な本だ。一貫した明確なストーリーがあるわけでもないのに、スイスイ読める。
「船ならばドックに入っているほうが、ボナパルトならば兵営時代のほうが、ダビデならば山羊の乳をしぼっている時のほうが、クリストフ・コロンブスならばパロス港にいる時のほうが、シンドバッドならばまだ自分の家にいる時のほうが、それぞれ僕には好ましかった」(12ページ)
「君のなかで世間が非難するところのものを、十分に手を入れて育てあげたまえ、それがほかならぬ君なのだから」(41ページ)
いや、前言を撤回しよう。ストーリーはあったかもしれない。ストーリーと呼べるかどうかは、ともかくとして。
「僕はまだ情欲を知らなかった。僕の情欲、それは性がまだ肉の決心に影響しない年頃には、目的に到達することでも、手を触れることでも、抱擁することでもなくて、選ばれた人間になることだった。何という孤独だ!」(179ページ)
「ある町と町のあいだに、一人の貧しい旅行者がいる。彼が町に残してきたもの、それはもう彼のものではない。彼がこれから町で求めるもの、それはまだ彼のものではない」(196ページ)
詩集だと思おう。繋がりの見え隠れする、詩集。ゲーテの『ファウスト』の如く、読む度に何かを得られるだろう。独特のデッサンも、一見の価値がある。
五年も前に読んでいたら、途中で投げ出してしまっていたに違いない。
- 作者: ジャンコクトー,Jean Cocteau,渋澤龍彦
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