Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

金槐和歌集

23歳の若さで散った、鎌倉右大臣、源実朝の歌集。

金槐和歌集 (岩波文庫)

金槐和歌集 (岩波文庫)

 

源実朝(斉藤茂吉校訂)『金槐和歌集岩波文庫、1929年。


何度開いても新しい発見がある、素晴らしい本。夏の終わりを感じさせる涼しい夜風の吹く、今日のような気候に合う歌を見つけました。

  ながむれば衣手さむし夕づく夜さほの川原のあきの初風(秋部、181番)

この歌集に収められた有名な和歌としては、

  ほのほのみ虚空にみてる阿鼻地獄行くへもなしといふもはかなし(雑部、652番)

  おほ海の磯もとゞろによする波われてくだけてさけて散るかも(雑部、696番)

この二つが挙げられるでしょう。20代で死を迎えたラディゲや実朝の作品に触れると、坂口安吾と同様に、憂鬱になります。

  夕月夜おぼつかなきを雲間よりほのかに見えしそれかあらぬか(戀之部、427番)

  風吹けば花は雪とぞちりまがふ吉野の山は春やなからむ(春部、83番)

  山はさけ海はあせなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも(雑部、680番)

季節が移る度に、旅路の途中に、恋の想いの中に、何度でも開きたくなる本。
2007年に重版されたものの、入手困難な状態が続いているので、新刊書店で見つけたら是非手に取って頂きたい。

  昨日まで花の散るをぞ惜しみこし夢かうつゝか夏も暮れにけり(夏部、175番)

素晴らしい本です。

金槐和歌集 (岩波文庫)

金槐和歌集 (岩波文庫)