Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

ランボー詩集

シュルレアリストたちに大きな影響を与えたフランス象徴派・三大詩人の一人、ランボー

ランボー詩集 (新潮文庫)

ランボー詩集 (新潮文庫)

 

アルチュール・ランボー(堀口大學訳)『ランボー詩集』新潮文庫、1951年。


知ったような口振りで「フランス象徴派・三大詩人」などと書いたが、実際「象徴派」が何たるかを知っているとは言い難い。他の二人は誰かと言うと、マラルメヴェルレーヌだ。マラルメは読んだことがないし、今回ヴェルレーヌランボーの共通点を見出だせたとも、残念ながら言えない。

堀口大學の翻訳を常々絶賛しているけれど、今回の『ランボー詩集』は正直読みやすいとは言えないものだった。いや、綺麗に韻を踏んでいる分、声に出して読むと大変リズムが良いのだが、そもそもの大意が掴みづらいのだ。堀口のせいではなく、ランボーを甘く見ていた自分に非がある。震えるような言葉をところどころで感知できるのだが、一つの詩全体として「これは暗唱できるようになりたい!」と思うものが少ないのだ。大変な影響で知られ、愛読者も数多い詩人の言葉が入ってこないのは悲しい。

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裏切られた心臓


脂臭い粗末な煙草にまぶされて、
僕の哀れな心臓は、船尾で文句の百万だら、
奴らはそれでも足りないかスープのげろまで吐きかける、
僕の哀れな心臓は、船尾で文句の百万だら、
一度にどっと笑いだす
部隊のひやかしあびながら、
脂臭い粗末な煙草にまぶされて
僕の哀れな心臓は、船尾で文句の百万だら!
男根崇拝的でまた、兵隊気質まる出しの
奴らの下卑たひやかしが、僕の心臓を荒ませた!
舵に壁画がかいてある
男根崇拝的でまた、兵隊気質まる出しの。
ああ、玄妙な不可思議な波浪よ、清めてはくれまいか
僕の哀れな心臓を。
男根崇拝的でまた、兵隊気質まる出しの
奴らの下卑たひやかしが、僕の心臓を荒ませた!

奴らの噛煙草まで切れたとしたら
なんとしようぞ、おお、僕の裏切られた心臓よ?
奴らの噛煙草まで切れたとしたら
あとは酒臭いげっぷが出るさ、
胃の腑がびっくりするだろう
僕がもう一度心臓を呑み込んだりしたら。
奴らの噛煙草まで切れたとしたら
なんとしようぞ、おお、僕の裏切られた心臓よ!

(72~73ページ)
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堀口大學の訳の良さはそのリズムにある。小林秀雄訳が有名な『地獄の季節』や、「ランボーが理解できる」という定評のある宇佐美斉訳の『ランボー全詩集』も読んでみたいと思った。他の訳を読んで一度ランボーの癖を理解した上で堀口訳を読み返せば、味わい深くなるに違いないのだ。堀口訳を楽しめるのなら、いくらでも遠回りする価値がある。ヴェルレーヌが好きな分、そもそも象徴主義の何たるかを学びたいとも思った。

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最高の塔の歌


あらゆるものに縛られた
哀れ空しい青春よ、
気むずかしさが原因で
僕は一生をふいにした。

心と心が熱し合う
時世はついに来ぬものか!

僕は自分に告げました、忘れよう
そして逢わずにいるとしよう
無上の歓喜の予約なぞ
あらずもがなよ、なくもがな。

ひたすらに行いすます世捨てびと
その精進を忘れまい。

聖母マリアのお姿以外
あこがれ知らぬつつましい
かくも哀れな魂の
やもめぐらしの憂さつらさ。

童貞女マリアに
願をかけようか?

僕は我慢に我慢した。
おかげで一生忘れない。
怖れもそして苦しみも
天空高く舞い去った。

ところが悪い渇望が
僕の血管を暗くした。

ほったらかしの
牧の草
生えて育って花が咲く
よいもわるいも同じ草。

すごいうなりを立てながら
きたない蠅めが寄りたかる。

あらゆるものに縛られた
哀れ空しい青春よ、
気むずかしさが原因で
僕は一生をふいにした。

心と心が熱し合う
時世はついに来ぬものか!


(114~117ページ)
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シュルレアリスムの次は象徴主義だ。成立した順序は完全に逆だが。そもそもシュルレアリスム文学を読み終えることもなさそうなのに、一体どうしたらいいのだろう。贅沢な悩みである。

ランボー詩集 (新潮文庫)

ランボー詩集 (新潮文庫)

 


追記(2014年10月17日):以下は小林秀雄訳の『地獄の季節』、それから宇佐美斉訳の『全詩集』。また、鈴木創士訳を追加した。

地獄の季節 (岩波文庫)

地獄の季節 (岩波文庫)

 
ランボー全詩集 (ちくま文庫)

ランボー全詩集 (ちくま文庫)

 
ランボー全詩集 (河出文庫)

ランボー全詩集 (河出文庫)