雑記:移動祝祭日記
パリを離れた途端にインターネットに接続できる環境が整ったので、パリで見た文学的遺跡の数々を写真付きで紹介しようと思う。第一弾は、ヘミングウェイの記憶から。
ヘミングウェイが『移動祝祭日』の中で繰り返し描いていた書店、シェイクスピア・アンド・カンパニー(Shakespeare and Company)は今もパリにあり、1920年代の頃から変わらず、英語圏の国々から来た人びとのオアシス的存在である。
ヘミングウェイ、エズラ・パウンド、ガートルード・スタイン、フィッツジェラルドなどなど、数多くの作家たちが通ったのは、このお店がまだオデオン通りに位置していた時のことである。初代店主シルヴィア・ビーチはヘミングウェイの恩人で、第二次世界大戦でパリが占領されたとき、ヘミングウェイは真っ先に彼女を救いにこの書店へ駆けつけた。その時のヘミングウェイの様子はロバート・キャパの『ちょっとピンぼけ』に描かれている。
当時の店は残念ながら大戦中の1941年に閉まって以来二度と開くことはなく、現在のシェイクスピア・アンド・カンパニー書店は1951年に開かれた、ノートル・ダムとサン・ミッシェル界隈のちょうど中間あたり、ヘミングウェイたちが通ったのとは違う場所に位置している。店内の様子を撮らせて欲しいとお願いしたところ、快く応じてくれた。
入口を入ってすぐ左側に、作家たちの写真が飾られている。
店内は床から天井までびっしりと本が詰め込まれ、ものすごい圧迫感。地震のない国だからこそ可能なその迫力に酔う。
入って右側には二代目店主ジョージ・ホイットマンが愛したビートの作家たちと、ロスト・ジェネレーション、ヘミングウェイが『移動祝祭日』で名前を挙げていたような人びとの作品が並べられている。
シルヴィア・ビーチの著作『Shakespeare and Company』に…
そして勿論この本、Ernest Hemingway『A Moveable Feast』。
奥へ進むとアルファベット順に英語圏の作家の本が並んでいる。
店内のほとんどが文学作品であることに驚く。
狭苦しい店内に愛書家たちの興奮が漂っている。
シェイクスピアはもちろんコーナーの一角を占めている。
ちなみに、こちらの隣にもう一件の別店舗、蒐集家向けの古書店がある。
こちらも天井までびっしり。でも、さすがにお客さんは少ない。
欲しい本が多すぎて困る。
ところで、シェイクスピア・アンド・カンパニーと言えばこの作家。
ジェイムス・ジョイス!
あらゆる出版社に拒絶された彼の『ユリシーズ』がとうとう刊行されたのは1922年、シェイクスピア・アンド・カンパニーの初代店主、シルヴィア・ビーチの手によってである。そこで「『ユリシーズ』の初版本は置いていないのか」と聞いてみたところ、「ああ、あれだよ」と指さされたのが…
あった!
レジの奥で、それは無造作に飾られていたのでした。
ノートル・ダム大聖堂に行ってユゴーに想いを馳せた後は、是非シェイクスピア・アンド・カンパニー書店へ。愛書家なら誰もが息を呑むことでしょう。
<関連書>
ヘミングウェイ『移動祝祭日』
ガートルード・スタイン『パリ フランス』
シルヴィア・ビーチ『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』
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