Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

仮面の商人

 小笠原豊樹の訃報が届いてから、早くも一週間が経った。一週間前、ちょうど『背骨のフルート』について書いたころであるが、わたしは自分でも驚くほど打ちのめされてしまっていて、ひどく沈んでいたものだ。自然、追悼の気持ちが高まってきて、はからずも生前最後の訳書のひとつとなった、先月出たばかりのトロワイヤを手にとった。しんみりした気持ちで読みはじめたのだが、ここで、大きな変化が生じた。あまりのおかしさ、おもしろさに、哀悼の念などそっちのけで、貪るように読みふけってしまったのだ。わたしはこの本を、文字通り一日で読み終えた。それくらい、手に吸いついて離れなかったのだ。読み終えたときはもう晴れやかな気分で、泣きたいほど嬉しかった。

仮面の商人 (小学館文庫)

仮面の商人 (小学館文庫)

 

アンリ・トロワイヤ小笠原豊樹訳)『仮面の商人』小学館文庫、2014年。

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