Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

2010-01-01から1年間の記事一覧

雑記:2010年一番面白かった本

2010年に読んで一番面白かった本を発表します。昨年は気の迷いで「ニナ文藝賞」などという講談社あたりが主催しそうな名前をでっち上げましたが、ちょっと悲しくなるほどださい上に、代替案も特に見つからないので、今年は単に「一番面白かった本」とします。…

雑記:好きな作家ベスト100(2010年版)

友人たちと恒例にしている、公開した途端に後悔するランキング、年末の「好きな作家ベスト100」を掲示します。 今年は年始に派手なイベント、半年のところでは派手な引っ越し、そしてそれ以降今もなお続く「文盲」期間があったため、年始に期待していたよう…

Apparition et autres contes de l'étrange

『Une Vie(邦題:女の一生)』を大学の授業で扱ってから無性に読みたくなったモーパッサンの短篇集。2ユーロで買えるガリマール社のお得なシリーズの一冊。 Apparition Et Autr Cont (Folio 2 Euros) 作者: G. Maupassant 出版社/メーカー: Gallimard Educa…

La Gloire de mon père

『Marius』三部作を読んでから、小説も読んでみたいと思っていたマルセル・パニョル。たまたま大学の教授がこの本を推薦してくれたので、手にとってみた。 La Gloire De Mon Pere 作者: Marcel Pagnol 出版社/メーカー: Distribooks Inc 発売日: 2004/09/30 …

Stupeur et tremblements

大学の教授に「この本についてあなたと意見交換がしたい!」と言われ手に取った本。1999年初版刊行、ベルギー出身の作家アメリ・ノトンによる日本の企業社会を風刺した一冊。 Stupeur Et Tremblements 作者: Amelie Nothomb 出版社/メーカー: Hachette 発売…

Satané Dieu !

先日紹介した『Le C. V. de Dieu』の著者が書いた、もう一つの神さまの話。前作で「この世の終わりを準備する」と言い放った神さまは、ここではどんなことをするのか。 Satane Dieu (Ldp Litterature) 作者: J. L. Fournier 出版社/メーカー: Livre de Poche…

Le C. V. de Dieu

2008年にフェミナ賞を受賞したことも記憶に新しい、ジャン=ルイ・フルニエのユーモア小説。フェミナ賞の受賞作『Où on va, papa ?』がいかにも重たそうなテーマを扱っていたので敬遠していたのだが、この『Le C. V. de Dieu』はタイトルからして既にユーモ…

Contes 1, 2, 3, 4

イヨネスコがエチエンヌ・ドゥルセールという画家と共に作り上げた、三歳以下の子どもたちのための絵本。もともと四分冊だった四本の掌編を一冊にまとめたもの。 Contes 1, 2, 3, 4 作者: Eugene Ionesco 出版社/メーカー: Editions Gallimard 発売日: 2009/…

La Cantatrice chauve suivi de La Leçon

先日カミュを読みながら「不条理(absurde)」という言葉の意味を再考してみたが、何故自分がこれほどまでにこの言葉に反感を覚えるのかは上手く説明できなかった。そういうわけで紋切り型の表現としては「実存主義(existentialisme)」と「シュルレアリス…

L'étranger

初めてこの本を読んだ日のことは決して忘れることができない。その頃まだ高校生だった私は、学校の帰りに紀伊國屋書店新宿南店に寄り、京王線の中でわくわくしながらこの本を開いた。そして気がついたときには、自分の降りるべき駅を通り過ぎてしまっていた…

César

マルセル・パニョルによるマリユス三部作、とうとう最後の一作。結局この三部作を読み終えるのに丸々一月も費やしてしまった。 Cesar 作者: Marcel Pagnol 出版社/メーカー: Distribooks Inc 発売日: 2001/01 メディア: マスマーケット この商品を含むブログ…

Fanny

パリを離れてナントにやってきたものの、インターネット接続がなかなかうまくいかずに更新が滞ってしまっている。ようやく今回紹介できるのはマルセル・パニョルによるマリユス三部作の第二作目。前作『Marius』から二年、マリユスが旅立った後のマルセイユ…

雑記:移動祝祭日記

パリを離れた途端にインターネットに接続できる環境が整ったので、パリで見た文学的遺跡の数々を写真付きで紹介しようと思う。第一弾は、ヘミングウェイの記憶から。

Marius

パリの語学学校で出会ったスイス人の友人が教えてくれた、南仏マルセイユの作家マルセル・パニョルによる戯曲。南仏訛りが強調される部分以外は平易なフランス語で書かれているため、私でも十分理解することができた。 Marius 作者: Marcel Pagnol 出版社/メ…

Le Petit Prince

もう何度目なのか数えることもできない。岩波書店の内藤櫂訳で初めて読んだ時から今までに、様々な翻訳者の手によるこの本を比べてみたり、何故か英訳で読んでみたりもした(ちなみにそのときの記事)。考えてみると随分と遠回りしたものだが、とうとう、ど…

聖母の贈り物

一冊の本をこれほど長い期間読み続けたことは久しくなかったように思える。これほど多くの場所へ連れ回したことも。この本を最初に開いた場所は新宿で、それから栃木の祖母の家で何篇か読み、最後の一篇を読み終えたのはパリだった。今月の頭にフランスに来…

ソドム百二十日

登場する変態の数があらゆる文学の中でも最も多いと噂される、サドの未完の小説。ずいぶん前に読んだ巖谷國士の『シュルレアリスムとは何か』の中では、ある種のユートピア文学としても紹介されていた。 ソドム百二十日 (河出文庫) 作者: マルキ・ドサド,マ…

来たるべき蜂起

おそらく今年最もショッキングな出版物の一つに数えられるであろう、彩流社の先月の新刊。『不純なる教養』に紹介されていたことから手に取った。 来たるべき蜂起 作者: 不可視委員会,『来たるべき蜂起』翻訳委員会 出版社/メーカー: 彩流社 発売日: 2010/05…

大学の歴史

『不純なる教養』を読んで知った、大学という概念を捉えなおすための一冊。最近人文系の本ばかり読んでいるのは、世界観に入り込む必要のない人文書の気安さが心地良いから。でも、こう人文書続きの生活を送っていると無性に文学が読みたくなってもくる。素…

不純なる教養

大学生の頃、僕にとって重要だったのは授業に出席することではなく、喫煙所において彼の話を聞くことだった。そんな僕の人生を徹底的に狂わせた男、白石嘉治氏による初めての単著。 不純なる教養 作者: 白石嘉治 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2010/04/23…

お気に召すまま

最近長篇小説ばかり読んでいたため無性に読みたくなったシェイクスピア。タイミング良く、友人がこの本を読みたいと話していたことを思い出した。 シェイクスピア全集 (〔21〕) (白水Uブックス (21)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志 出版社/メ…

感情教育

サイードが『知識人とは何か』の中で紹介していた「知識人を扱った小説」の最後の一冊。ツルゲーネフの『父と子』とジョイスの『若い藝術家の肖像』を越えて、ようやくこのフロベールの『感情教育』に辿り着いた。 感情教育 上 (河出文庫) 作者: ギュスター…

若い藝術家の肖像

サイードが『知識人とは何か』のなかで紹介していた「知識人が登場する小説」は三作、ツルゲーネフの『父と子』とフロベールの『感情教育』、そしてこのジェイムズ・ジョイスの『若い藝術家の肖像』だった。既読だったのは喜ばしいことにツルゲーネフのみで…

原子力都市

『無産大衆神髄』と『愛と暴力の現代思想』で知られる在野の思想家、矢部史郎の最新刊。 原子力都市 作者: 矢部史郎 出版社/メーカー: 以文社 発売日: 2010/03/12 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 22回 この商品を含むブログ (12件) を見る 矢部史郎『…

知識人とは何か

ジュンク堂書店新宿店で実施している「ディアスポラ文学フェア」から抜き出してきた一冊。有名なタイトルながらも未読だったので、良い機会を与えてもらったと思い読んでみた。 知識人とは何か (平凡社ライブラリー) 作者: エドワード・W.サイード,Edward W.…

船乗りクプクプの冒険

またまた友人に薦められた一冊。僕が普段日本文学を読まないことに気を使って、わざわざどんな読書嫌いにも読みきれるような作品を選んでくれたようだ。海外文学にどっぷり漬かっていると、たまに読む日本文学がものすごい疾走感を持っているように感じられ…

怪奇小説が好きならこれを、と友人が強く薦めてくれたデュ・モーリアの短編集。とにかく「モンテ・ヴェリタ」を読んでくれ、と言われ手に取った、初めてのデュ・モーリアである。代表作とされる『レベッカ』を読まずに、短編集から入ってしまった。 鳥―デュ…

ホフマン短篇集

オットー・ランクの『分身』を読んでから読みたいと思っていたホフマン。初めてホフマンを読むにあたってどこから始めようかと考えていた時、以前友人からもらったこの短篇集を思い出した。彼はこの本を古本屋で見つけて嬉々として購入したところ、家に帰っ…

バートルビー 偶然性について

ジョルジョ・アガンベンの論文「バートルビー 偶然性について」と、その主題であるメルヴィルの短編「バートルビー」の新訳を同時に収録した、大変気の利いた一冊。主題となる小説の短さが可能にした素晴らしい構成であり、さらに訳者による「バートルビーの…

分身

アドルフォ・ビオイ・カサーレスの『モレルの発明』に書かれた、清水徹による「訳者あとがき」で紹介されていた一冊。この「あとがき」の素晴らしさには忘れがたいものがあって、紹介されている本を全て読みたいと思わせる力があるのだ。 分身 ドッペルゲン…