Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

どうして僕はこんなところに

今月頭に読んだ『ウッツ男爵』があまりにおもしろかったので、もっとほかのも読んでみたいと思い手に取ったブルース・チャトウィンの作品集。2012年刊行だというのに残念ながらすでに絶版になってしまっているが、まだ在庫している書店を見つけられたので、…

3冊で広げる世界:頭の悪すぎる英国紳士たち

文学作品の良し悪しを判断するうえで大切な要素のひとつに、笑いがある。かつて井上ひさしがどこかで「読者を泣かせることは簡単だが、笑わせることは難しい」と書いていた記憶があるが、ここに端的に表れているように、笑いをもたらすというのはとても高度…

3冊で広げる世界:盲人たちが見たもの

ホメロスには盲人だったという説がある。いや、そもそも「ホメロス」という言葉自体が、ギリシア語で「盲人」を意味するそうだ。2世紀の作家、自称ヘロドトス(あくまで自称であって、あの大著『歴史』を書いた紀元前5世紀のヘロドトスとは別人)の『ホメロ…

3冊で広げる世界:意味が意味にならない世界

突然だが、わたしはマイラバが好きだ。マイラバというのはもちろん、歌手のMy Little Loverのことである。熱狂的なファンというのではなく、「好きだ」と公言するわりにはシングルになっている曲ぐらいしか知らないのだが、いまでもしょっちゅう聴いている。…

3冊で広げる世界:大人が読む児童文学

児童文学というのは、文学史的にはかなり近代的な分野である。フィリップ・アリエスなんかの研究に詳しいとおり、そもそもの《子ども》という概念は、歴史学の観点から溯ってようやく17世紀ごろに誕生したものであり、それまで彼らは、江國香織の表現を借り…

3冊で広げる世界:この試みについて

わたしが初めて書店員として仕事に就いたのは18歳のときのことなので、以後企業や店舗、さらには国まで変えながら、もう十年も「本屋さん」でありつづけている。本についてどんなに詳しくても、金融業や保険会社では役に立たない、つまり、そもそもまるで食…

オンディーヌ

メーテルリンクの『ペレアスとメリザンド』、フーケの『水妖記』と、水の精にまつわる物語を立て続けに紹介してきたのは、じつはこの本について書きたいからであった。フーケの『水妖記』を直接参照して書かれた、20世紀の傑作戯曲。 オンディーヌ (光文社古…

水妖記

先日『ペレアスとメリザンド』を読んだことをきっかけに、感想を書いていなかったことを思い出した一冊。 水妖記―ウンディーネ (岩波文庫 赤 415-1) 作者: フーケー,柴田治三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1978/05/16 メディア: 文庫 購入: 3人 クリ…

ペレアスとメリザンド

先日の『赤い百合』の翻訳者、杉本秀太郎による訳業のひとつ。「なにか他にも読んでみたいなー」と考えながら自室の本棚を眺めていたら、目の前に突如として現れたのだ。きっと昨年、ドビュッシーが話題に登ることの多い作家、青柳いづみこのエッセイを読み…

ウッツ男爵

職場にて、入荷したばかりの新刊を整理している最中に目にとまった一冊。最近ちびちびと読んでいるある本のなかで、チャトウィンの名を目にすることが複数回あり、しかも翻訳者が池内紀だったので(英文学なのに!)、運命を感じて手に取った。帯にはこう書…

雑記:速読なんてクソくらえ

昔からよく言われてきたことだが、わたしは本を読むスピードが速いらしい。そういうことを言ってくる人たちは大抵、それを羨んでいるような調子で語りかけてくるので、この場ではっきりと言っておきたい。わたしの本を読むスピードは、べつに速くない。ただ…

赤い百合

先日の『ジョカストとやせ猫』があんまりおもしろかったので、「このノリノリな気分なら!」と、大急ぎで手に取ったアナトール・フランスの長篇小説。この本はアナトール・フランスの長篇のなかでも長い部類に入るので、どうも後回しになってしまっていたの…