Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

雑記:ぼくはおしゃれなブックラバー

 心底ふざけた題名を付けてみたが、これは「文学好き」という言葉がもたらすいかにも垢抜けない感じに一石を投じるための記事である。

 文学好きは暗い。毎日毎日、本ばかり読んでいて、恋人なんてできた試しがなく、それなのにジェイン・オースティンを読んでは恋愛とはなにかを知り尽くした気でいる。静かな喫茶店の所在を質問するにはこれほどうってつけの人間もいないが、一緒に喫茶店に行くなんて御免こうむる。だいたい、いつも同じ服を着ている。髪の毛をいつまでも切らない。おまけに煙草くさい。十中八九メガネをかけていて、都市生活では必要になるはずがないほどの大きな鞄に、いつも3、4冊の本を持ち歩いていて、そのためジャケットの肩がいつもずり落ちている。みっともない。一緒に町を歩きたくない。ああ、いやだいやだ。げろげろー。

 さあ、いまこそこんな偏見に否を突きつけよう。われわれは文学好きだが、なにも毎日黒い服を着ている必要はなく、鞄に『夜の果てへの旅』を入れてはいても、町ではにこやか且つ爽やかに振る舞うことだってできるはずなのだ。そんなあなたへの一助となるであろう、お買い物サイトを紹介しよう。


OUT OF PRINT
http://outofprintclothing.com/


Out of Print Clothing | Your favorite classic books on t-shirts and other merchandise


LITOGRAPHS
http://www.litographs.com/


Litographs | Books on T-shirts, Posters, and Tote Bags


 ウェブサイトを実際に見てもらえばすぐにわかると思うが、このふたつは文学を題材にしたTシャツを制作・販売しているアメリカの通販サイトである。じつはすでに利用し、今日ついに手元に届いたので、ひとつずつ購入方法も含めて紹介していきたい。ちなみにどちらもオーダーしたのは10月17日のこと、「発送したぜ!」という内容の丁重なメールが届いたのが、OUT OF PRINTは10月21日、LITOGRAPHSは10月24日、そしてどちらも11月4日に到着した。3週間足らずである。ちなみにわたしがいま住んでいる国は日本ではなく、住所のシステムすら確立されていない中東の砂漠なので(だから勤めている書店宛に送ってもらう必要があった)、アメリカからの物理的な距離を考えても、日本でオーダーすればもっと早く到着する気がする。

 さて、まずはOUT OF PRINTである。Tシャツの値段は1枚あたり28ドルなので、日本円換算でざっくり3,000円だ。わたしが買ったのは以下の3枚。

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 左から、カフカの『変身』、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』、それからブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』である。60ドル以上の買い物でアメリカ国外にも無料発送してくれるという太っ腹ぶり。わたしは追跡オプションのない「Free Standard Shipping via USPS」というのを選択したのだが、なんの問題もなかった。ちなみに「USPS」というのは、「United States Postal Service」のことで、安っぽい袋に入ってポーンと送られてくる。イメージとしてはメール便に近い。

 気になるサイズ感について付言しておくと、わたしは身長170cm、体重55kgの標準体型(男)なのだが、Sサイズで肩幅までぴったりだった。丈だけはやはり日本で買うものよりも長いが、気になるほどではない。素材についても生地が薄すぎるというようなこともなく、文句なし。やるじゃん、アメリカの通販! トートバッグやポーチなどもあるので、きっとまた利用すると思う。

 つぎはLITOGRAPHSだ。こちらはすべて受注生産となっているそうで、1枚あたりの価格はOUT OF PRINTよりもちょっぴり高い34ドル。3500円くらい。購入したのは以下の2枚。

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 OUT OF PRINTが英語版ペーパーバックの表紙などを用いたわかりやすいデザインだったのに比べて、こちらは一見しただけでは文学作品をイメージしているかどうかすらわからないと思う。答えを先に言ってしまうと、左はディケンズの『二都物語』、右は『ユリシーズ』(というかジェイムズ・ジョイスそのひと)である。遠目には普通のTシャツなのだが、じつは近づいて見てみると、空白でない部分はすべて文字で埋め尽くされているのだ。しかもちゃんと読める。つまり文字通り本を着ているのである。なんの柄も入っていない背中などは文字びっしりで眩暈がするほどだ。作成過程の動画を見つけたので、ここに貼り付けておく。


Litographs: How we make our t-shirts on Vimeo


 動画中の『アリス』のTシャツのように、もっとおもしろいデザインのTシャツもたくさんあるのだが、わたしはそこまで勇敢ではないので、上掲の2枚となった。刻印されるテキストが英文のみという点も気になったので、もともと英語以外で書かれている文学を題材にしたものなどを買う気にもなれず、ディケンズとジョイスという選択となったわけである。

 実物が届いてみてからの感想としては、サイズ感はOUT OF PRINT同様、ちょっと丈が長いものの肩幅などはばっちりである。印刷されたテキストもこすったら消えるようなものではなく、ちゃんと定着しており、これなら洗っても大丈夫そうだ。プレスで印刷するためか、脇の下などプレスの手が届かない部分は空白になっているのもおもしろい。受注生産になるわけだ。

 ひとつだけ気になるのは、Tシャツの襟元、リブの部分が存外太く、しかもそこだけほかの部分より厚いためテキストが浮き上がって、着ているとリブがやけに目立つという点だ。実物は写真よりもこのリブ問題が顕著なので、過度の期待は禁物。まあ、人によっては気にならないと思うので、そこまで重要なことでもないのだが。

 購入方法としては、48ドル以上の購入でアメリカ国内には無料配送してくれるのだが、残念ながら海外は対象外。Tシャツ2枚の代金のほか別途14.99ドルを支払って、OUT OF PRINT同様のUSPSにて配送してもらった。決済画面でボタンをぽちぽち押していくだけなので、大した困難は伴わない。配送料を考えると割高だな、と今更ながら思った。

 今回見つけたのはどちらもアメリカのサイトだったため、やはりどうしても英文学中心になってしまっていて、フランス文学狂いのわたしとしてはまだ不満の残る結果であった。フランス語で検索しても、あんまり格好良いのが見つからないのだ。だれか良いのを知っているひとがいたらぜひ教えてください。

 ちなみに色々と検索している最中、日本のサイトでこんなところを見つけたので紹介しておく。

ロシア語Tシャツ通販ボリショイ雑貨:ロシア文学シリーズ

http://www.bolshoizakka.com/ch.html


ロシア文学Tシャツシリーズ | ボリショイ雑貨


 すでにウェブサイトからして見るからにダサい点と、ラインナップがかなりぶっ飛んでいて、大変好感が持てる。「こ、このチェーホフ肖像画Tシャツなんかは、意外とイケてるのでは……?」なんて考えてしまった。日本に帰ったら買うかもしれない。

 ところで、こういう内容で記事を書くことはそうそうないことなので、せっかくなのでわたしが日本に住んでいたころに愛用していた読書用品の通販サイトを紹介しておきたい。ここで購入した「ラップトップトレーテーブル」を日本に置いてきてしまったことを、心底後悔している。

読書用品専門店 快読ショップYomupara

http://www.yomupara.com/


読書用品専門店・快読ショップYomupara・本よむ人のパラダイス


 最後は正岡子規に締めくくってもらおう。

「男子にて修飾を為さんとする者は須く一箇の美的識見を以て修飾すべし。流行を追ふは愚の極なり。美的修飾は贅沢の謂に非ず、破袴弊衣も配合と調和によりては縮緬よりも友禅よりも美なる事あり」(正岡子規『病牀六尺』岩波文庫より、135ページ)

 そんなぼくらはおしゃれなブックラバー。