Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

評価-★★☆☆☆(好き)

いそがなくてもいいんだよ

しばらくぶりの更新。といってもたかだか四日ぶりで、ふだんのわたしの更新頻度を知るひとは、こいつ気でも狂ったか、と思っていることだろう。ちょっと事情を説明すると、断食月中は、あらゆる会社の勤務時間を短くするように、と、当地の労働法で定められ…

村に火をつけ、白痴になれ

じつは先日より、久しぶりに日本にいる。出張での帰国というか、いつもどおり仕事の予定が多いので、会いたいひとたちにもろくに連絡をしていない滞在なのだが(みんなごめん)、仕事には都内の実家から電車に乗ってあらゆる場所へ行くため、移動時間が長く…

An Imaginary Menagerie

年末に公開した「雑記:海外文学おすすめ作家ベスト100」が好評を博したようで、とても喜んでいる。評価し、広めてくれた方々、ありがとうございました。あけましておめでとうございます。年始早々、「おれって人気者じゃん!」なんて馬鹿げた考えに取り憑か…

A Child's Garden of Verses

つい先日の『Little Book of Poems for Young Children』でも紹介されていた、スティーヴンスンによる子どものための詩集。先日の記事では「A Good Play」と「Bed in Summer」、それから「Young Night Thought」の3つを訳出してみたが、ほかにもたくさんいい…

Little Book of Poems for Young Children

ヴァージニア・ウルフの『自分だけの部屋』を読んでいたら、クリスティナ・ロセッティなどの魅力的な詩が紹介されていて、そういえば英語で詩を読んだことがない、と気づき、勤め先の書店の棚から抜き出した一冊。いきなりブラウニングやキーツなどを読もう…

複製技術時代の芸術

なんて難しい本だったことだろう。いま自分がこの本を読み終えた、いや、まがりなりにも読み終えたことにしようとしているのが、ちょっと信じられないくらいだ。何度も何度も題名を目にした経験から、ようやく手にとった一冊。ページを最後まで繰りはしたが…

水妖記

先日『ペレアスとメリザンド』を読んだことをきっかけに、感想を書いていなかったことを思い出した一冊。 水妖記―ウンディーネ (岩波文庫 赤 415-1) 作者: フーケー,柴田治三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1978/05/16 メディア: 文庫 購入: 3人 クリ…

ペレアスとメリザンド

先日の『赤い百合』の翻訳者、杉本秀太郎による訳業のひとつ。「なにか他にも読んでみたいなー」と考えながら自室の本棚を眺めていたら、目の前に突如として現れたのだ。きっと昨年、ドビュッシーが話題に登ることの多い作家、青柳いづみこのエッセイを読み…

気になる部分

ルクレティウスや、ほかの大部な本を読みながら、読書に疲れたときに読んでいた本。先日家に遊びにきた友人が本の山から見つけ出してくれたので、読みなおしてみた。 気になる部分 (白水uブックス) 作者: 岸本佐知子 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2006/0…

人さまざま

先日『ヘッセの読書術』を読んだときに、興味をかきたてられた一冊。アリストテレスの弟子にして同時代人、テオフラストスによる愛すべき小品。 人さまざま (岩波文庫 青 609-1) 作者: テオプラストス,森進一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2003/04/16 …

消えた印刷職人

ルネサンス期のヨーロッパにおいて、印刷技術の発展がユマニスム運動の普及にもたらした影響を知りたいと思って手を伸ばした、16世紀の印刷職人物語。 消えた印刷職人―活字文化の揺籃期を生きた男の生涯 作者: ジャン・ジルモンフロワ,Jean‐Gilles Monfroy,…

夢の通い路

ひょんなことから、最初の一篇「花の下」を読む機会があり、最後まで読んでみたいと思った連作短篇集。自分にとっては二冊目の倉橋由美子。 夢の通い路 (講談社文庫) 作者: 倉橋由美子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1993/11 メディア: 文庫 クリック: 1…

クリトン

『ソクラテスの弁明』と併録されることのきわめて多い、裁判後のソクラテスとその友クリトンとの対話を描いた掌篇。どれくらい掌篇かと言うと、わずか40ページほどの作品である。 ソクラテスの弁明ほか (中公クラシックス (W14)) 作者: プラトン,田中美知太…

遊女の対話

エラスムスの『痴愚神礼讃』に幾度となく引用され、ラブレーも愛したと伝えられるローマ時代の諷刺家、ルキアノスの作品集。 遊女の対話―他三篇 (岩波文庫 赤 111-2) 作者: ルーキアーノス,高津春繁 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1961/04/25 メディア:…

Stupeur et tremblements

大学の教授に「この本についてあなたと意見交換がしたい!」と言われ手に取った本。1999年初版刊行、ベルギー出身の作家アメリ・ノトンによる日本の企業社会を風刺した一冊。 Stupeur Et Tremblements 作者: Amelie Nothomb 出版社/メーカー: Hachette 発売…

Satané Dieu !

先日紹介した『Le C. V. de Dieu』の著者が書いた、もう一つの神さまの話。前作で「この世の終わりを準備する」と言い放った神さまは、ここではどんなことをするのか。 Satane Dieu (Ldp Litterature) 作者: J. L. Fournier 出版社/メーカー: Livre de Poche…

Contes 1, 2, 3, 4

イヨネスコがエチエンヌ・ドゥルセールという画家と共に作り上げた、三歳以下の子どもたちのための絵本。もともと四分冊だった四本の掌編を一冊にまとめたもの。 Contes 1, 2, 3, 4 作者: Eugene Ionesco 出版社/メーカー: Editions Gallimard 発売日: 2009/…

Fanny

パリを離れてナントにやってきたものの、インターネット接続がなかなかうまくいかずに更新が滞ってしまっている。ようやく今回紹介できるのはマルセル・パニョルによるマリユス三部作の第二作目。前作『Marius』から二年、マリユスが旅立った後のマルセイユ…

ソドム百二十日

登場する変態の数があらゆる文学の中でも最も多いと噂される、サドの未完の小説。ずいぶん前に読んだ巖谷國士の『シュルレアリスムとは何か』の中では、ある種のユートピア文学としても紹介されていた。 ソドム百二十日 (河出文庫) 作者: マルキ・ドサド,マ…

船乗りクプクプの冒険

またまた友人に薦められた一冊。僕が普段日本文学を読まないことに気を使って、わざわざどんな読書嫌いにも読みきれるような作品を選んでくれたようだ。海外文学にどっぷり漬かっていると、たまに読む日本文学がものすごい疾走感を持っているように感じられ…

マクベス

『オセロー』『リア王』『ハムレット』と並んで、四大悲劇の一つに数えられる、スコットランドを舞台としたシェイクスピアの悲劇。半年以上読んでいなかった、久しぶりのシェイクスピアである。 シェイクスピア全集 (〔29〕) (白水Uブックス (29)) 作者: ウ…

ダフニスとクロエー

マキューアンの『初夜』を読んで読みたくなった、童貞と処女の恋を題材にしたローマ時代の古典。 ダフニスとクロエー (岩波文庫 赤 112-1) 作者: ロンゴス,松平千秋 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1987/03/16 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 20回 …

ロボットとは何か

吉祥寺のブックスルーエに立ち寄った時に薦められた一冊。どうやら彼は手当たり次第にこの新刊を推薦しているようだ。そんな気持ちになるのも理解できる、誰にも興味のあるテーマを論じた講談社現代新書の新刊。 ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現…

文盲

『悪童日記』の著者アゴタ・クリストフによる自伝で、故国ハンガリーを離れ「敵語」であるフランス語によって著作を行うことを誓った作家の、人生を綴った書。 文盲 アゴタ・クリストフ自伝 作者: アゴタ・クリストフ,堀茂樹 出版社/メーカー: 白水社 発売日…

カブールの燕たち

昨日、東京日仏学院で講演を行ったアルジェリア人がいる。ヤスミナ・カドラである。最新作『昼が夜に負うもの』の翻訳刊行記念講演会で、これが日本に紹介された三冊目の作品となった。翻訳作品は今のところアフガニスタン、パレスチナ、アルジェリアと小説…

テロル

女性の名前という覆面の下に社会学者と作家という二つの顔を隠し持つ、ヤスミナ・カドラ。フランスに帰化したアルジェリア出身の作家で、最近三冊目の翻訳『昼が夜に負うもの』が刊行されたばかり。 テロル (ハヤカワepiブック・プラネット) 作者: ヤスミナ…

ほらふき男爵の冒険

ジャリの『超男性』に「ほらふき男爵」こと、ミュンヒハウゼン男爵の名が登場したのを機に手に取った一冊。古典はこういう機会を活用しないとなかなか読まない。 ほらふき男爵の冒険 (岩波文庫) 作者: ビュルガー,Guttfried August B¨urgar,新井皓士 出版社/…

長靴をはいた猫

巖谷國士の『シュルレアリスムとは何か』を読んでからずっと、「おとぎばなし」を読みたいと思っていた。ルーセルの『ロクス・ソルス』を読んだことでその想いが一層強まり、手に取った一冊。 長靴をはいた猫 (河出文庫) 作者: シャルルペロー,渋澤龍彦 出版…

ほんわか!

吉祥寺のブックス・ルーエに立ち寄った際に、うっかり買ってしまった本。しかも、うっかり読んでしまった。たまにこういった軽めのエッセイが読めると、精神が健全に保てる気がして嬉しい。 ほんわか! 本についてわからないこと、ねほりはほり! (MF文庫ダ・…

アインシュタインの夢

先日友人と話をしていて、ハヤカワepi文庫の全点読破を目指すことになった。期限を設けるわけではないので緩やかに実施されるに違いないが、特に初期のものに手を回すのはなかなか大変である。先日、田村隆一の詩を読んでいてアインシュタインの名前が出てき…