Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

配架-本の本・文芸評論

詩という仕事について

ボルヘスというひとをもっとよく知りたいとき、ぜったいに読んでおくべきだと思う本が個人的に二冊あって、一冊は先日紹介した『The Last Interview』に収められたリチャード・バーギンとの対談(邦訳なら柳瀬尚紀訳の『ボルヘスとの対話』)、そしてもう一…

Decline of the English Murder

気づけば早くも三冊目のオーウェル評論集。いつからそんなにオーウェルが好きになったんだよ、と、自分でもちょっと笑ってしまうが、この作家の読みやすさは圧倒的で、英語で本を読んでみたい、というようなひとは、もうみんなオーウェルの評論からはじめれ…

Some Thoughts on the Common Toad

一冊の本の記事を書くのに、これほど時間をかけたのは久しぶりだ。なにもそんなにマジにならなくても、とは自分でも思ったのだが、せっかく英語の本をわざわざ紹介するのだから、気に入った箇所くらいはぜんぶ自分で訳してみなくては、と思ってしまったのだ…

Books v. Cigarettes

突然だが、どうもわたしはヘビースモーカーらしい。らしい、なんて言うのは、わたしのように煙草を吸うことに後ろめたさなどぜんぜん感じない喫煙者は、一日に何本吸ったかなど、わざわざ数えることはしないと思うのだ。かばんには常に最低でも二箱は携帯し…

ヴァレリー・セレクション 上巻

朝起きてすぐ、顔を洗ってコーヒーを湧かしたら、出勤前の時間をヴァレリーとともに過ごす、という生活を送っていた。過ごせる時間はもちろん早起きの度合いによりけりで、一時間のときもあれば三十分に満たない日もあった。そんなふうだから読書は遅々とし…

ぼくの短歌ノート

穂村弘が昨年刊行した短歌評論集。ページを開いたが最後、読み終えるまであっという間だった。じつを言うと、そうなることがこれまでの読書体験から簡単に予想できたからこそ、なんというか、もったいなくって読みはじめられずにいたのだ。現在も『群像』誌…

恋する伊勢物語

普段の自分だったら、こういうことはしなかったはずだ、と思う。われながら、ちょっとどうかしていた。なんの話かというと、『伊勢物語』そのものを手に取るより先に、『伊勢物語』の解説書的なものを読んでしまったのだ。ちょっとページをめくるつもりが、…

和歌とは何か

このところ、自分の無知を痛感して、和歌や短歌に関する本ばかり読み漁っているのだが、こと和歌に関して、ようやくこれぞと思える概説書に出会えたように思っている。先日の岩波ジュニア新書『古典和歌入門』の著者、渡部泰明による、和歌の読み方に革命を…

古典和歌入門

和歌についてもっと知りたいと思い、手にとった本。先日の『ちびまる子ちゃんの短歌教室』もそうだが、一般的に子ども向けに書かれた概説書には良書が多い。とびきりわかりやすく書かれていて、さらなる興味を掻き立ててくれ、おまけに次にどんな本を読むべ…

ちびまる子ちゃんの短歌教室

こいつ、ついに気でも狂ったか、と思われる向きもあるかもしれないが、大丈夫、たぶんまだ正常です。先日から何度も、「知らないということには慎み深くありたい」という永田和宏の言葉を繰り返しているわけだが、わたしの無知が、まるちゃんさえ動員した、…

新・百人一首

すこしあいだが空いてしまったものの、相変わらず短歌に関連した本ばかり読みつづけている。なにも知らない分野なぶん、インプットが非常に多いわりには、得たものをろくに吟味・反芻できていない気がしていて、じつは『現代秀歌』の記事を書いている最中に…

現代秀歌

現代短歌に熱を上げはじめたわたしに、友人が読書ガイドとして薦めてくれた一冊。初めに書いてしまうと、これは人生を変える一冊である。いや、ほんとうに人生を変えられるかどうかは、これを読み終えた読者のその後次第なのだろうが、ここにはもう一生困ら…

愛する源氏物語

ずいぶん唐突に短歌にはまってしまったことを隠そうともしない本ブログではあるが、じつは現代短歌への関心が高まるにつれて、「現代」と断言するには数十年古い、戦後と呼ばれる時代に生きた歌人たちの短歌、そしてもっと前、明治時代に詠まれた近代短歌、…

はじめての短歌

穂村弘が慶應大学でおこなった「世界と〈私〉を考える短歌ワークショップ」の講義録。とても薄いうえに字の大きな本で、出版社はなんと実用書で有名な成美堂出版。それだけでも本の性格が伝わってくるくらいだが、『短歌の友人』などで語られていた穂村弘流…

短歌ください その二

とっくに読み終えていたのにいつまでも感想を書かずにいた、穂村弘の『ダ・ヴィンチ』誌上での連載、『短歌ください』の書籍化第二弾。テーマにもとづく歌の読者投稿をほむほむが選び、コメントを付ける、という、とても幸福な本。 短歌ください そのニ (ダ…

短歌ください

日本で会った心の友に薦めてもらった本。今回は仕事を片付けるための帰国だったため、半年以上ぶりの日本だというのに期間もたった一週間と短く、しかも毎日会議が中心の心底さびしい日程だったのだが、場所もさまざまな取引先の会社を訪問するための電車に…

自分だけの部屋

アディーチェの新刊『We Should All Be Feminists』を読んだことで、ずいぶん前に、友人から薦められたのを思い出した一冊。薦めてくれたのはアディーチェのときと同じ、マレーシア人の女の子である。彼女は「フェミニズム批評」というものに大変な関心を持…

読書について

更新をやめてからおよそ一年が経ったので、これを機にブログを再開したいと思う。この一年間、本を読んでいなかったわけではもちろんないのだが、読書量はかなり減っており、選書傾向も以前とは幾分異なっていた。おかげで、以前なら気にも留めていなかった…

六本指のゴルトベルク

最近は短歌に関連する本ばかりを紹介していたものの、じつはこれと並行して、わたしはいまかつてない情熱をもってクラシック音楽に関する本を読み漁っている。音楽論、音楽小説、作曲家の伝記など、その内訳はさまざまだが、すべてのきっかけとなったのは、…

世界中が夕焼け

あまりにおもしろい本を読むと、すぐに感想を書こうという気になれない。なんというか、きっと読み終えてしまったことを認めたくないのだ。感想を書くというのは、自分がその本に対して抱いている印象をかっちり固定化する、ということにほかならないのだけ…

本へのとびら

すこし前、たしか去年のことなのだが、『ジブリの本棚』というDVDを購入した。とはいえ、目的はDVDよりも付録のほうにあって、このDVDには「宮崎駿が選ぶ岩波少年文庫の50冊」という、豆本サイズのたいへん魅力的な小冊子が付いていたのだ(ちなみに、DVD自…

絵本を抱えて部屋のすみへ

思うところがあって、ずっと更新をしていなかった。本を読んでいなかったわけではないのだが、読み終えた一冊と向き合い、その印象を書き留めるという作業に、意味を見出せなくなっていたのだ。しかし、半年ほど書くのをやめていたおかげで、気のせいなのか…

ヴァレリー文学論

本を読んでいて感嘆する一文に出会ったとき、わたしはそのページの端を折る。そして、同じページのうちにいくつもそのような輝ける一文があったときには、ページのもうひとつの端も折る。だが当然ながら、折れる端の数には限界があり、片方のページを二度も…

零度のエクリチュール

感動した。わたしはいま、猛烈に感動している。過去に二度挑戦し、二度とも読破を諦めた本を、おおいに楽しみながら読むことができたからだ。自分が成長した部分も少なくないのかもしれないが、いまならこう断言できる。それはむしろ忍耐力と内容への関心の…

剽窃の弁明

最近、ふたつの言葉の厳密な定義を知りたくて仕方がない。「剽窃」と「模倣」である。前者は悪徳として、後者は敬意の表明として扱われるものなのだろうが、うまく言葉にできない。そこで手に取った一冊。 剽窃の弁明 (エートル叢書) 作者: ジャン=リュック…

書物の敵

ラングの『書斎』のなかで何度も言及されていて、読みたくなった本。ずいぶん昔に購入したのにずっと手をつけずにいたので、今がチャンス、とばかりに手に取ってみた。 書物の敵 作者: ウィリアムブレイズ,高宮利行,William Blades,高橋勇 出版社/メーカー: …

書斎

先日紹介した『愛書狂』と『書痴談義』のあいだに刊行された、生田耕作と白水社による、もうひとつのすばらしい共作。せっかくなので、三冊すべてを紹介することにした。 書斎 (1982年) 作者: 生田耕作,アンドルー・ラング 出版社/メーカー: 白水社 発売日: …

短歌の友人

なんだか無性に短歌のことが知りたくなって、初めて手に取ってみた穂村弘。 短歌の友人 (河出文庫) 作者: 穂村弘 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2011/02/04 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 12回 この商品を含むブログ (24件) を見る 穂村弘『…

柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方

ずっと前に友人がだれかに薦めていた本。たまたま手に取ってパラパラと開いていたら、気がついたら読み終えてしまっていた。 柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方 作者: 柴田元幸,高橋源一郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2009/03/1…

知識人とは何か

ジュンク堂書店新宿店で実施している「ディアスポラ文学フェア」から抜き出してきた一冊。有名なタイトルながらも未読だったので、良い機会を与えてもらったと思い読んでみた。 知識人とは何か (平凡社ライブラリー) 作者: エドワード・W.サイード,Edward W.…