Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

Little Book of Poems for Young Children

 ヴァージニア・ウルフ『自分だけの部屋』を読んでいたら、クリスティナ・ロセッティなどの魅力的な詩が紹介されていて、そういえば英語で詩を読んだことがない、と気づき、勤め先の書店の棚から抜き出した一冊。いきなりブラウニングやキーツなどを読もうとしたら、きっと立ち直れなくなる気がしたのだ。それに、そもそもどんな詩人がいるのかをぜんぜん知らない身にとっては、こういう古今東西を織り交ぜたアンソロジーほど役に立つものはない。イギリスの出版社Usborneによる、子どものための詩選集。

Little Book of Poems for Young Children

Little Book of Poems for Young Children

 

Philip Hawthorn (Edit.), Little Book of Poems for Young Children, Usborne Publishing, 2006.


 全ページフルカラーで、イラストが収録されている。それらは目を楽しませてくれるだけではなく、ときには詩の理解まで助けてくれるという、大変気の利いた一冊である。われながらすばらしい本を選んだ、と嬉しくなってしまった。表紙になっているのはPeter Dixonという詩人の「Magic Cat」である。

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Magic Cat

My mum whilst walking through the door
Spilt some magic on the floor.
Blobs of this
and splots of that
but most of it upon the cat.

Our cat turned magic, straight away
and in the garden went to play
where it grew two massive wings
and flew around in fancy rings.
“Oh look!” cried Mother, pointing high,
“I didn’t know our cat could fly.”
Then with a dash of Tibby’s tail
she turned my mum into a snail!

So now she lives beneath a stone
and dusts around a different home.
And I’m an ant
and Dad’s a mouse
And Tibby’s living in our house.

魔法の猫

ママがドアをまたいだとき
床にうっかり魔法をこぼした。
そいつはしみとなり
汚れにもなったが
ほとんどはうちの猫のうえに。

魔法にかかった猫はすぐさま
庭に遊びにでかけた
そこで二つの大きな翼を生やすと
そいつで宙返りをやってのけた。
「まあ!」とママは、空を指さしながら、
「うちの子が飛べるだなんて知らなかったわ」。
そこにティビーの尻尾が襲い
ママはカタツムリにされちゃった!

いま、ママは石のした
埃にまみれて暮らしている。
ぼくはアリにされ
そしてパパはネズミに
ティビーはぼくらの家で悠々自適の生活。

Peter Dixon, Magic Cat (p.8)
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 わたしの拙い訳ではぜんぜん表現できていない(そんなつもりもない)が、原文では「door」や「floor」、「wings」に「rings」と、前後の行でいちいち韻を踏んでいるのがわかる。いわゆる「verse(韻文)」というやつで、声に出して読んでみると、すごく楽しい。うまいこと考えるなあ、と感心してしまうのだが、これを子どもにも理解できるような簡単な語彙だけで構成するというのは、詩人たちにとってはひとつの挑戦であるにちがいない。そして、びっくりするほどうまくこれをやっているのが、親しみのある作家だったことを嬉しく思った。われらがスティーヴンスンである。

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A Good Play

We built a ship upon the stairs
All made of the back-bedroom chairs,
And filled it full of sofa pillows
To go a-sailing on the billows.

We took a saw and several nails.
And water in the nursery pails;
And Tom said, “Let us also take
An apple and a slice of cake;”
Which was enough for Tom and me
To go a-sailing on, till tea.

We sailed along for days and days,
And had the very best of plays;
But Tom fell out and hurt his knee,
So there was no one left but me.

たのしい遊び

ぼくらは階段のうえに船をつくった、
裏の寝室から持ってきた椅子をつかって。
そいつを枕でいっぱいにした、
大波のうねりへと漕ぎだすために。

ぼくらはのこぎりと釘を持ち出した。
水は子ども部屋のバケツで用意した。
トムが言う、「リンゴとケーキも
持って行こうじゃないか」
トムとぼくにはそれで十分、
漕ぎだすのは、お茶の時間までだから。

ぼくらは何日も何日も航海し、
こんなにたのしい遊びはないと思った。
でも、トムが落ちて膝を打ってしまい、
ぼくは独りで取り残されたのだった。

Robert Louis Stevenson, A Good Play (p.23)
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Bed in Summer

In winter I get up at night
And dress by yellow candle-light.
In summer, quite the other way,
I have to go to bed by day.

I have to go to bed and see
The birds still hopping on the tree,
Or hear the grown-up people’s feet
Still going past me in the street.

And does it not seem hard to you,
When all the sky is clear and blue,
And I should like so much to play,
To have to go to bed by day?

夏のベッド

冬にはまだ暗いうちに目を覚まして
ロウソクの黄色い光で身支度をする。
夏にはまるでちがっていて、
まだ日のあるうちにベッドに入れられる。

ベッドに入れられたぼくは見る、
樹のうえでまだ飛び跳ねている鳥たちを。
大人たちの足音が、
通りを行き過ぎる音を聞く。

こんなのひどいと思わないかい、
空はまだ澄み切って青いのに、
こんなにも遊び足りない気持ちを抱えて、
まだ日のあるうちにベッドに入れられるだなんて?

Robert Louis Stevenson, Bed in Summer (p.47)
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 自分の翻訳技術の低さに、ほとほと嫌気が差してきた。でも、わたしは柳瀬尚紀ではないので、ひとまずはこれで満足するしかない。韻文を韻文に訳すというのは、非常にウリポ的な試みであると思う。つまり、ちょっとした思いつき程度の訳文では、ぜんぜんできない。原文の見事な韻を見るたびに、これを訳せと言われたところで、と思ってしまう。かといって、韻を踏ませるためだけに、普段使わないような日本語を持ち出すというのも間違っていると思う。スティーヴンスンは難しい言葉などひとつも使っていないのだから。

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Young Night Thought

All night long, and every night,
When my mamma puts out the light,
I see the people marching by,
As plain as day, before my eye.

Armies and emperors and kings,
All carrying different kinds of things,
And marching in so grand a way,
You never saw the like by day.

So fine a show was never seen
At the great circus on the green;
For every kind of beast and man
Is marching in that caravan.

At first they move a little slow,
But still the faster on they go,
And still beside them close I keep
Until we reach the town of Sleep.

少年の夜

一晩中、毎晩、
ママが明かりを消すたびに、
ぼくには行進する人びとが見える。
昼日中のようにはっきりと、目の前で。

兵隊や皇帝や王様たちが、
みんな別々のものを手に手に、
盛大な行進をしてみせる。
こんなの昼日中にも見たことないはず。

芝生のうえのサーカスでも、
お目にかかれないすばらしいショー。
あらゆる野獣と人びとが
そのキャラバンではともに進む。

最初はゆっくり動いているが、
やがてどんどん速くなる。
ぼくは彼らの近くに留まる、
眠りの街に着く、そのときまで。

Robert Louis Stevenson, Young Night Thought (p.92)
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 これらの詩が収められた、スティーヴンスンの子どものための詩集『A Child's Garden of Verses』には、日本でも複数の翻訳が出ている。これらの訳者たちがいったいどんなふうにやっているのか、大変興味が湧いた。

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The Caterpillar

Brown and furry
Caterpillar in a hurry;
Take your walk
To the shady leaf or stalk.

May no toad spy you,
May the little birds pass by you;
Spin and die,
To live again a butterfly.

いもむし

茶色くって、もじゃもじゃの
いもむしが急いでいる
道のりを選んで
葉や茎の影を目指して

カエルが見張っていませんように
小鳥たちが行き過ぎますように
繭をつくって目を閉じる
蝶としてふたたび生きるために。

Christina Rossetti, The Caterpillar (p.11)
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Is the Moon Tired?

Is the moon tired? She looks so pale
Within her misty veil;
She scales the sky from east to west,
And takes no rest.

Before the coming of the night
The moon shows papery white;
Before the dawning of the day
She fades away.

お月さまはお疲れ?

お月さまはお疲れ? ずいぶん青白い
ぼんやりした霧に包まれて。
東から西へと空によじ登り、
休みなんてとれやしない。

夜がやってくる前には
お月さまは薄い白。
夜明けの前になると、
色あせて消えていく。

Christina Rossetti, Is the Moon Tired? (p.86)
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 以上は、ヴァージニア・ウルフも言及していたクリスティナ・ロセッティの作品。やはり見事に韻を踏んでいて、つまり訳すとぜんぜんおもしろくなくなってしまう。英詩翻訳について、一家言あるひとに意見を訊いてみたいものだ。アルフレッド・テニスンの詩もあった。

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The Eagle

He clasps the crag with crooked hands;
Close to the sun in lonely lands,
Ring’d with the azure world, he stands.

The wrinkled sea beneath him crawls;
He watches from his mountain walls,
And like a thunderbolt he falls.

ワシ

ひん曲がった手で絶壁につかまる彼は、
孤独な大地で太陽にほど近く、
青空に囲まれ、毅然としている。

下方には波打つ海が這いつくばり、
彼は壁につかまったまま視線を逸らさず、
やがて雷のように落ちていく。

Alfred Tennyson, The Eagle (p.26)
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 題名を見ないまま読んでいたら、なにが起きているのかわからなくなってしまい、もう一度最初から読んでみてもやはりわからず、そのときようやく題名に気がついた。それにしてもこの韻の踏み方はどうだろう、「hands」「lands」「stands」と、「crawls」「walls」「falls」。こういった脚韻詩が、日本の詩に与えてきた影響なども気になるところである。脚韻の意識は単語の選択範囲を圧倒的に狭めるはずなので、奇抜なものが生まれるはずなのだ。

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The Sound Collector

A stranger called this morning
Dressed all in black and grey
Put every sound into a bag
And carried them away

The whistling of the kettle
The turning of the lock
The purring of the kitten
The ticking of the clock

The popping of the toaster
The crunching of the flakes
When you spread the marmalade
The scraping sound it makes

The hissing of the frying-pan
The ticking of the grill
The bubbling of the bathtub
As it starts to fill

The drumming of the raindrops
On the window-pane
When you do the washing-up
The gurgle of the drain

The crying of the baby
The squeaking of the chair
The swishing of the curtain
The creaking of the stair

A stranger called this morning
He didn’t leave his name
Left us only silence
Life will never be the same.

徴音人

今朝、見知らぬ男がやってきた。
全身黒とグレーづくめのそいつは、
バッグに家中の音を入れて、
持ち去ってしまった。

やかんのピーピーも、
鍵のガチャガチャも、
子猫のゴロゴロも、
時計のチクタクも、

トースターのポン! も、
シリアルのパリパリも、
マーマレードを塗るときの
ベチャベチャいう音も。

フライパンのジュージューも、
焼き網のカチカチも、
バスタブにお湯を張るときの
ブクブクいう音も。

雨粒が窓ガラスを叩く
コツコツいう音も。
洗濯をするときの
脱水のゴボゴボも。

赤ん坊のギャーギャーも、
椅子のキーキーも、
カーテンのシュシュシュも、
階段のギーギーも。

今朝、見知らぬ男がやってきた。
名刺は残していかず、
残されたのは静寂だけ。
人生は様変わりすることだろう。

Roger McGough, The Sound Collector (pp.24-25)
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 これはRoger McGoughというイギリスの詩人の作品。ほかの詩も紹介されていたのだが、このひと、かなりおもしろい。もうひとり気に入ったのが、以下のOgden Nashだ。

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The Elephant

Elephants are useful friends,
Equipped with handles at both ends,
They have a wrinkled moth-proof hide,
Their teeth are upside-down, outside,
If you think the elephant preposterous,
You’ve probably never seen a rhinosterous.

ゾウさん

ゾウさんは役に立つ友だち、
頑丈な皮を両端に備えていて、
その皺くちゃは虫除けにもなっている。
歯は上下逆さまに、しかも口の外にある。
きみがもしこの風采を最低だと思うのなら、
これからサイさんを再三見なさい。

Ogden Nash, The Elephant (p.34)
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The Lion

The lion is the king of beasts,
And husband of the lioness.
Gazelles and things on which he feasts
Address him as your highoness.
There are those that admire that roar of his,
In the African jungles and velds,
But, I think that wherever the lion is,
I’d rather be somewhere else.

ライオン

ライオンは百獣の王であり、
雌ライオンの夫でもある。
ガゼルなんかのごちそうたちは、
彼のことを殿下と呼んでいる。
アフリカのジャングルや草原には
彼の咆哮に感服しっぱなしの連中がいるが、
ライオンがどこにいるにせよ、
そこには近づかないのが賢明だ。

Ogden Nash, The Lion (p.35)
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 サイに頭を使いすぎたので、ご覧のとおりライオンは投げた。「rhinosterous」とか「highoness」とか、言葉のかたちそのものを変えるのは、楽しいけれど反則だと思う。Spike MilliganとJohn Agardも気になる詩人だ。

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A Baby Sardine

A baby sardine
Saw her first submarine:
She was scared and watched through a peephole.

“Oh come, come, come,”
Said the sardine’s mum,
“It’s only a tin full of people.”

イワシの子ども

イワシの子どもが
初めて潜水艦を見た。
恐ろしかったので穴からのぞいていた。

「平気よ、出ておいで」
イワシの母親が告げる。
「あんなのただの、人を積んだブリキよ」

Spike Milligan, A Baby Sardine (p.29)
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Ask Mummy Ask Daddy

When I ask Daddy
Daddy says ask Mummy

When I ask Mummy
Mummy says ask Daddy.
I don’t know where to go.

Better ask my teddy
he never says no.

ママに訊け、パパに訊け

パパに質問すると、
ママに訊きなさいと言われる。

ママに質問すると、
パパに訊きなさいと言われる。
どこへ行ったらいいかわからない。

テディベアに訊くのがいちばんだ。
彼はぜったいに拒絶しない。

John Agard, Ask Mummy Ask Daddy (p.75)
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 このなかの「sardine」と「submarine」、「Daddy」「Mummy」「Teddy」は、もう勝手に脳内変換してください。この詩集の編者であるPhilip Hawthornの作品も紹介されていた。

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The Train from Loch Brane

There once was a driver
Called Hamish McIver,
Who drove the fast train
From Perth to Loch Brane.
For years he had driven
The route he’d been given,
But one day he thought he’d
Be ever so naughty.

So next Monday morning,
Without any warning,
He went off the rails
And headed for Wales.
It gave all his passengers
Quite a big challenge, as
Where they were going,
They’d no way of knowing.

But round about three
They arrived at sea,
And Hamish bought everyone
Welsh cakes and tea.
And when they had snacked,
He trundled them back,
Through fields and forest
And railway track.

And after all shouting,
“Hooray for the outing!”
The people all said,
As they climbed into bed,
That Hamish McIver’s
The very best driver
Who ever drove trains
From Perth to Loch Brane…
From Perth to Loch Brane…
From Perth to Loch Brane…
From Perth to Loch Brane…

ロック・ブレイン始発列車

あるところに車掌がいた。
彼の名はハミッシュ・マキヴァー。
パース発ロック・ブレイン行きの、
急行列車の車掌だった。
何年も何年も、
与えられた道筋をたどっていた。
ところがある日、これまでぜんぜん、
やんちゃをしてこなかったことに気がついた。

そこで次の月曜日の朝、
なんの勧告もなしに、
彼は道筋から抜け出し、
ウェールズへと向かった。
それは乗客たちにとっては、
ただならぬ挑戦であった。
なにせ、どこに向かっているのかも、
彼らは知らなかったのだから。

でも三時をまわったころ、
彼らは海にたどり着いた。
ハミッシュはみんなに、
ウェールズ風ケーキと紅茶をふるまった。
おやつを堪能し終えたのを見て、
今度は回れ右をさせると、
またも野原と森を越え、
もとの車線へと連れ戻した。

「やっほい、楽しい遠足だった!」
みんなはそう叫んだあと、
ベッドによじ登る段になっても、
こんな風に言っていたのだった。
ハミッシュ・マキヴァーは、
これまでのどんな車掌よりすばらしい、
世界最高の車掌だ。
パース発ロック・ブレイン行きの……
パース発ロック・ブレイン行きの……
パース発ロック・ブレイン行きの……
パース発ロック・ブレイン行きの……

Philip Hawthorn, The Train from Loch Brane (pp.54-55)
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 ちょっと『人生処方詩集』のなかの、ケストナーの詩みたいだと思うのだけれど、どうだろうか。ほかにも作者不詳の詩に彼が手を加えたものがあった。

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Have You Ever Seen?

Have you ever seen a duvet on a flower bed?
Or a single hair from a hammer’s head?
Has the foot of a mountain got any toes?
And can you cross over the bridge of a nose?

Why don’t the hands on a clock ever clap?
Or the wings of a building flutter or flap?
Can the bottoms of oceans sit down for their tea?
And can you unlock the trunk of a tree?

Are the teeth of a comb ever going to bite?
Can the eye of a needle look left – and then right?
Has the bank of a river ever got any cash?
And how loud is the sound of a computer’s crush?

見たことある?

花壇(a flower bed)にふとんが掛けられているのは見たことある?
ハンマーの頭に髪の毛が生えているのはどう?
山の足元に、つま先はあるのかしら?
鼻梁(the bridge of a nose)を渡ることはできると思う?

どうして時計の針(hands)は拍手しないのかな?
建物の翼(よく)は羽ばたいたりしないの?
海底(the bottoms of oceans)はお茶の時間に座ったりしないの?
木の幹(the trunk)を解錠することはできる?

櫛の歯は噛みつかないってほんとう?
針の目は左を向いたり、それから今度は右を向いたりできないの?
川の土手(bank)からは現金は引き出せないの?
コンピューターのクラッシュって、どんな大きな音がするものなの?

Anon, adapted by Philip Hawthorn, Have You Ever Seen? (p.60)
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 ちょっと逆立ちしても翻訳できないところがあったので、訳文に原語を入れて補足した。作者不詳の詩にはおもしろいものが多々あり、だれが書いたのかわかっていれば断然調べあげたのに、と、ちょっと悔しい気分だ。とはいえ、こういう詩に出会えるのもアンソロジーの醍醐味である。

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The Snowman

Once there was a snowman
Stood outside the door,
Thought he’d like to come inside
And run around the floor;
Thought he’d like to warm himself
By the firelight red;
Thought he’d like to clamber up
On that big white bed.
So he called the North Wind, “Help me now I pray.
I’m completely frozen, standing here all day.”
So the North Wind came along and blew him in the door –
And now there’s nothing left for him
But a puddle on the floor.

雪だるまくん

あるところに、雪だるまくんがいた。
ずっと戸口に突っ立っていた。
家のなかに入って、
室内を走り回りたいと思った。
暖炉の赤々とした火明かりに照らされ、
身体を暖めたいと思った。
あの白くて大きなベッドに、
あがってみたいとも思った。
そこで彼は北風さんを呼んだ。「後生だから、
もう寒くてかなわない、ここに一日中、突っ立てるんだ」。
そこで北風さんは近づいてくると、ふうと一吹きで彼をドアのなかへ。
だからもう、なんにも残っていない。
床に広がった水たまりを除いては。

Anon, The Snowman (p.15)
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Kite

A kite on the ground
Is just paper and string
but up in the air
it will dance and sing.
A kite in the air
will dance and caper
but back on the ground
is just string and paper.



地上の凧は
ただの紙と紐
でもひとたび空中にあがると
歌って踊るようになる。
空中の凧は
踊って跳ねまわっている
でもひとたび地上に戻ると
ただの紙と紐。

Anon, Kite (p.27)
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Montague Michael

Montague Michael
You’re much too fat,
You wicked old, wily old,
Well-fed cat.

All night you sleep
On a cushion of silk,
And twice a day
I bring you milk.

And once in a while,
When you catch a mouse,
You’re the proudest person
In all the house.

But spoilt as you are,
I tell you sir,
This dolly is mine
And you can’t have her!

モンタギュー・マイケル

モンタギュー・マイケル、
あんたちょっと太りすぎ。
この腕白年寄り、いたずら年寄り、
ご満悦猫め!

あんたは毎晩、
シルクのクッションのうえでおやすみ、
一日に二回も、
あたしがミルクをあげている。

そういえばあるとき、
あんたはネズミをつかまえて、
家中のだれよりも
誇らしげにすましていたっけ。

でもいくら甘やかされていようと、
謹んで申し上げます、殿下、
この人形はあたしので、
あんたのじゃないの!

Anon, Montague Michael (p.32)
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 早口言葉みたいなものもあり、こればっかりは訳したところで、という感じなので、そのまま掲載する。ちょっと声に出して読んでみてもらいたい。

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Betty Botter

Betty Botter bought some butter,
But, she said, this butter’s bitter;
If I put it in my batter,
It will make my batter bitter,
But a bit of better butter
Will make my batter better.
So she bought a bit of butter
Better than her bitter butter,
And she put it in her batter,
And the batter wasn’t bitter.
So, ‘twas better Betty Botter
Bought a bit of better butter.

Anon, Betty Botter (p.52)
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She Sells Sea-shells

She sells sea-shells on the sea shore;
The shells that she sells are sea-shells I’m sure.
So if she sells sea-shells on the sea shore,
I’m sure that the shells are sea-shore shells.

Anon, She Sells Sea-shells (p.53)
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 また、以下も訳しようがないもので、既出のPhilip Hawthornの作品。読みやすいようにといくつかの単語の意味を併記した。「Classrhymes」というタイトルは、訳すなら「学級韻文」だろうか。結論の爽やかさがとても好きだ。がんばれデボラ。

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Classrhymes

Tony’s bony,          bony:骨ばった
Paul is tall,
Billy’s silly,
Deborah’s … er …

Pete’s been to Crete,      Crete:クレタ島
Hugh to Peru,
Erica to America,
Deborah to … er …

Claire has fair hair,       fair hair:色白で金髪
Mark is dark,
Wanda’s blonde,
Dave is shaved –

Ned is red,
Jack is black,
Clyde is dyed,         dyed:染めた
Deborah is … er …

Jane likes Wayne,
Wally like Polly,
Stew likes Sue,
Deborah likes … er …

Mike has a bike,
Doug has a bug,
Pat has a cat,
Deborah has … a zebra!

Classrhymes, Philip Hawthorn (p.80)
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 最後を飾るのはこれ。最初の二行しか知らなかったので、三行目以下があったことを知って驚いた。最後にはうってつけである。

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See You Later!

See you later, alligator.
In a while, crocodile.
See you later, hot potato.
If you wish, jelly-fish.
Not too soon, you big baboon.
Toodle-oo, kangaroo.
Bye-bye, butterfly.
See you tomorrow, horror.
In a week, freak.

Anon, See You Later! (p.89)
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 肩肘張らずに英詩に触れることができ、とても楽しかった。これ一冊を読んだだけでなにかが語れるようになるわけではけっしてないけれど、読みたい詩人がたくさんできたので、これからもどんどん触れていきたい。じつは翻訳に手間取っていたあいだにすでに数冊読み終えてしまったので、年が変わるまでにはそれらについても書きたいと思っている。ああ、楽しかった。

Little Book of Poems for Young Children

Little Book of Poems for Young Children