9990個のチーズ
行きつけの古本屋で偶然手に取った本。理由は可愛らしい装丁と、翻訳者が金原瑞人だったためだろう。
ヴィレム・エルスホット(金原瑞人・谷垣暁美訳)『9990個のチーズ』ウェッジ、2003年。
ヴィレム・エルスホットはベルギーの作家で、翻訳は同書の英訳版に基づいて行われている。ユーモア小説のような体裁で日常とそれからの脱却が謳われ、結論も何一つ与えられないまま日常が繰り返されフェイドアウトへと向かう。
「物語には、大事件も、殺人も、恋愛も、盛り上がりも、悲劇も、なにもない。」(訳者あとがき)
まさにその通りだ。技巧的でもなければ、哲学や教訓めいたものもなにもない。空気を楽しむために描かれたような小説である。
なんとなくユーモラスで、なんとなく切ない。読書に疲れた人が、それでも本を読んでいたい時に読むべき最良の本。
確かに、いい味が出ている。