Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

図書館

2008年10月に刊行されたばかりの、アルゼンチンの愛書家による書物を巡る素敵な随想集。

図書館 愛書家の楽園

図書館 愛書家の楽園

 

アルベルト・マングェル(野中邦子訳)『図書館――愛書家の楽園』白水社、2008年。


タイトルの通り、図書館にまつわるありとあらゆる事柄が描かれている。注の付け方等は完全に学術論文の形式に則っているが、内容は学術的なものではなく、気ままに書かれたエッセイという感覚が強い。だが、マングェルの「気まま」は我々には恐ろしい高みにある。学術論文を読んでいるような読感で、まだ踏破には程遠い文学の沃野を夢見ることになる。

「書物は、どういう順番で読むかによっても変化する。キプリングの『少年キム』のあとに読む『ドン・キホーテ』と『ハックルベリー・フィン』のあとに読む『ドン・キホーテ』は別の本である。どちらも、読む者がどんな旅を経験し、どんな友情を抱き、どんな冒険を味わったことがあるかによって、色合いが異なってくる。本は万華鏡のようにたえず変化しつづける。読みなおすたびに新たな世界が見つかり、別の形があらわれる」(178ページ)

本を読みたくなる本は沢山あるが、これはその中でもかなり上級者向けのものだろう。著者はボルヘスの友人である。この説明で臆さないのは、恐るべき読書家か、あるいはその正反対の者だけだろう。

失われたアレクサンドリア図書館から、著者自身の書斎、ボルヘスの勤めた図書館、ラブレーの揚げた実在しない書物、『海底二万里』のネモ船長の書斎まで、至るところに本の風景がある。図版が多いのも嬉しい。書斎が欲しくてたまらなくなる。本棚を整理したくなる。そして、本を読みたくなる。

「光のなかで、人は他者の創作した物語を読む。闇のなかで、人は自分の物語を創作する」(247ページ)

読むべき本が、こんなにも沢山あることが嬉しくなる。英語やフランス語で書かれた本を、どんどん読みたくなる。この本を薦めてくれた友人は、次のように語ってくれた。「マングェルの『図書館』は、ある程度読書に対する耐性を持っていないと読み進めるのが非常に困難な、耐性を持っているとこの上なく楽しい本だ」と。

「過去は誰にでも利用できる書架であり、有益な使い方をすれば、私たちのものとなる無尽蔵の源泉なのだ」(289~290ページ)

マングェルの恐ろしい博識を前にして、一端の読書家振るのが恥ずかしくなった。もっと本を読まなければ。とりあえず本棚を増設するところから、始めなければならない。

「言葉は飛び去るが、書かれたものは残る」(172ページ)

途中で投げ出して、この本に揚げられている本を耽読したいと、何度思ったことかわからない。読み終えて、充実感が得られる本。自身のある人は、是非。

図書館 愛書家の楽園

図書館 愛書家の楽園

 

 

<読みたくなった本>
ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ』 

シルヴィーとブルーノ (ちくま文庫)

シルヴィーとブルーノ (ちくま文庫)

 

フロベール『ブヴァールとペキュシェ』

ブヴァールとペキュシェ (上) (岩波文庫)

ブヴァールとペキュシェ (上) (岩波文庫)

 

デフォー『ロビンソン・クルーソー

ロビンソン・クルーソー (河出文庫)

ロビンソン・クルーソー (河出文庫)

 

オウィディウス『転身物語』

転身物語

転身物語

 

ヴェルヌ『海底二万里

海底二万里〈上〉 (新潮文庫)

海底二万里〈上〉 (新潮文庫)

 
海底二万里〈下〉 (新潮文庫)

海底二万里〈下〉 (新潮文庫)

 

ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

 

メアリー・シェリー『フランケンシュタイン

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)