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Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

An Imaginary Menagerie

配架-イギリス文学 評価-★★☆☆☆(好き) いわゆる-海外の詩 言語-英語の本 動物園-みみず 動物園-サメ

 年末に公開した「雑記:海外文学おすすめ作家ベスト100」が好評を博したようで、とても喜んでいる。評価し、広めてくれた方々、ありがとうございました。あけましておめでとうございます。年始早々、「おれって人気者じゃん!」なんて馬鹿げた考えに取り憑かれました。とはいえ、あんなまぐれ当たりのホームランは滅多に出るものではないので、さっさと忘れることにし、今年もいつものように長々と駄文を書き連ねる所存である。というわけで、昨年末から気に入っているイギリスの詩人Roger McGoughの、わたしにとっては『It Never Rains』『Slapstick』に次ぐ三冊目の詩集。

Imaginary Menagerie

Imaginary Menagerie

 

Roger McGough, An Imaginary Menagerie, Frances Lincoln, 2011.


 すでにお気づきの方も多いと思うが、この詩人の価値はその気安さにある。英語もさほど難しくはないし、なにより一冊がとても薄く、しかも収められている詩も大変短いので、じつに気軽にどこへでも持ち歩き、ページを開くことができるのだ。気づけば次から次へと手にとっており、大変中毒性が高い。

 この『An Imaginary Menagerie』は、タイトルを直訳すると、『架空の動物園』である。Amazon.comなどで検索してみると同名の本がいくつも出てくるので、語呂の良いこの書名自体は、Roger McGoughの創作ではないのだろう。しかし、この詩集にこれ以上うってつけのタイトルもない。なにせページを開いてみると、さながら図鑑のように、アルファベット順に「架空の動物たち」に寄せた詩が並べられているのだ。たとえばA。

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Anaconda

Ever see
an anaconda
drive through town
on a brand new Honda?

Don't ask him
for a ride

You might end up
inside.

アナコンダ

新品のホンダの
単車で街を走り回る
アナコンダ
見たことある?

乗せてってなんて
言っちゃあダメだ

たぶん体内に
乗せられることになる

(p.10)
―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――
Aunt-Eater

Aunt-eater, aunt-eater
Where have you been?
Aunt Liz took you walkies
And hasn't been seen

Nor has Aunt Mary
Aunt Lil or Aunt Di
Aunt-eater, aunt-eater
Why the gleam in your eye?

おば食い

おば食いさん、おば食いさん
どこに行ってらしたの?
あなたのお散歩に出かけてから
リズおばさんを見かけないのだけれど。

マリーおばさんも
リリおばさんも、ダイおばさんも。
おば食いさん、おば食いさん
どうして目を輝かせているの?

(p.12)
―――――――――――――――――――――

 見てわかるとおり、前者は「アナコンダ」と「ホンダ」がちょっと発音が近いね、というだけの、脚韻詩というよりはただのおやじギャグ、後者は「Anteater(アリ食い)」に「Ant(アリ)」ではなく「Aunt(おば)」を食わせたという、こちらもおやじギャグである。酔っぱらいか! しかしRoger McGoughが満員電車でくだを巻くおやじどもと決定的に異なるのは、その無理の多いおやじギャグに、ちゃんとオチをつけてくるところである。笑ってなるものか、と固く誓いながら読み進めることになる。

―――――――――――――――――――――
Bookworms

Bookworms are the cleverest
of all the worms I know

While others meet their fate
on a fisherman’s hook as bait

or churn out silk, chew up soil
or simply burn and glow

They make their homes in libraries
eating words to make them grow

In long-forgotten classics
latin tracts and dusty tomes

snug as bugs they hunker down
and set up family homes

Vegetarians mainly
they are careful what they eat

avoiding names or animals
or references to meat

They live to ripe old ages
and when its time to wend

they slip between the pages
curl up and eat ‘The End’.

本の虫

本の虫はわたしの知る
どんな虫よりも賢い

ほかの虫たちが釣り餌として
針先にかけられる運命をかこつとき

もしくは絹を吐き吐き、土をもぐもぐ
身を粉にして光を発しているとき

本の虫たちは図書館に住みつき
自らを育むために言葉を食べる

長いこと忘れ去られていた古典や
ラテン語の小冊子、埃をかぶった大著のなか

ぬくぬくと居心地よくうずくまり
そこで家庭を築きあげる

おおむね菜食主義者で
食品への気配りは入念そのもの

登場人物や動物の名前
肉に関する言葉は注意深く避ける

彼らは老齢に達するまで生きつづけ
やがて最期のときを察すると

ページのあいだに這いこみ、身体を丸め
そして「完」の字を食べる。

(pp.18-19)
―――――――――――――――――――――

 以下は、「ドリアン(durian)」と「アニマル(animal)」をくっつけた、その名も「ドリアニマル(Durianimal)」に寄せられた詩。訳文では反映させられなかった、原文の脚韻にも注目してもらいたい。

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Durianimal

The durianimal
is an amazing beast
(the word is Malaysian
for ‘unusual feast’)

Low in calories
and good to eat
an odd combination
half-fruit, half-meat

In taste and texture
beyond belief
imagine pineapple
and rare roast beef

(To vegetarians
they remain a puzzle
some refrain
while others guzzle)

Growing on trees
until mature
they drop from the branches
and crawl on the floor

With yellowish leaves
two legs and two arms
they live in the shade
of the durian palms

But not for long…
Considered such
a gourmet treat
their lives (like their bodies)
are short and sweet.

ドリアニマル

ドリアニマルは
おそるべき獣
(マレーシアの言葉で
「類稀なごちそう」)

カロリー控え目
美味このうえなく
半分くだもので半分は肉という
風変わりなとりあわせ

その味と食感は
信じがたいもの
パイナップルとレアのローストビーフを
想像してみてもらいたい

(菜食主義者にしてみれば
悩みの種でしかない
ある者が控える一方で
ある者はがつがつ食っている)

すっかり熟すまでは
木のうえに留まり
やがて枝から落ちると
大地を這っていく

黄色がかった数枚の葉と
二本の足と二本の腕をつけて
彼らはドリアンの木の
その暗がりで生活する

だが、それも長くは続かない……
これほどの美味、
垂涎の的であるからには
彼らの生は(彼らの身体同様)
甘く、短い。

(pp.33-34)
―――――――――――――――――――――

 基本的な発想からして一発ギャグなので、完全にすべっているものも多い。引用しているのは、読んでいてわたしが笑ったものだけである。なんて書くと神経を疑われそうでおそろしいが。

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Ostrich

One morning
an ostrich
buried his head
    in the sand
and fell asleep

On waking
he couldn’t remember
where he’d
    buried it.

ダチョウ

ある朝
一羽のダチョウが
みずからの頭を
    砂に埋めて
眠りについた

目を覚ましたとき
思い出せなかった
いったいどこに
    埋めたのかを。

(p.59)
―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――
Porcupine

A porcupine
that lost its quills
ran away from home
and took to the hills

All day long
it cried as it crawled
‘No one can love
a creature so bald.’

But it was wrong.

A handsome kestrel
dropped by to say
‘I Love You! I Love You!’
Then snatched it away.

ヤマアラシ

針を失くした
ヤマアラシ
家を飛び出し
丘を目指した

一日じゅう
這いつくばっては泣いていた
「こんなにハゲた生きものを
好きになってくれるやつなんかいない」

しかし、そういうわけでもなかった。

ハンサムなハヤブサ
近づいてきて言ったのだ。
「好きだよ! 好きだったら!」
そして彼をひっつかみ、連れ去った。

(p.65)
―――――――――――――――――――――

 以下の「Teapet」なんかは、「Teapot」とかけただけのもので、じつに微妙な読後感を与えてくれる。つまり、寒い。「ふうん」以上の感想が出てこない。だが、それでも韻は見事だ。

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Teapet

A teapet
I can recommend
to those who need
a loyal friend

Quiet, reliable
he’ll never stray
content to sit
on his kitchen tray

Give him water
stroke his spout
say ‘t h a n k – y o u’
when the tea comes out.

ティーペット

ティーペットは
忠実な友人を
探している方には
うってつけ

寡黙で、信頼に足り
決して行方をくらましたりしない
自分のお盆のうえで
満足気に鎮座している

水をやりなさい
飲みくちをなでてやりなさい
そしてお茶が出てきたら、
こう言ってあげましょう。「あんがとよ」

(p.79)
―――――――――――――――――――――

 また、英単語の響きが近いというだけでこの「動物園」に含められた詩も多い。たとえば以下の「slug(ナメクジ)」は電源などの「plug(プラグ)」との語呂合わせ。でもこれには笑ってしまった。「wordfish」は「swordfish(メカジキ)」からSをとった、といった具合である。

―――――――――――――――――――――
Slug

A 13-amp slug
you are likely to find
in the garden under a rock

Be careful
how you pick it up

You might get
a nasty shock.

ナメクジ

13アンプのナメクジ
庭の石のしたで
見つけられるらしい

持ちあげるときには
気をつけたまえ

たちの悪いショックを
受けるだろうから

(p.75)
―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――
Wordfish

Wordfish
    are swordfish
in a state of undress

Criss-crossing
    the ocean
in search of an S.

ワードフィッシュ

ワードフィッシュは
    じつはソードフィッシュ
おめかししていないだけ

大洋を縦横に
    駆けめぐる
頭のSを探し求めて

(p.88)
―――――――――――――――――――――

 こいつは翻訳できねえな、というものに関しては、上の二つを除いて今回はほとんど引用しなかった。以下の「Shark」なんかも、できないわけではないが、頭を悩ませられること必至の一篇である。

―――――――――――――――――――――
Shark

Ever see
a shark
picnic
in the park?

If he offers
you a bun

    Run!

サメ

公園で
ピクニックしてる
サメに会ったこと
ある?

パンでもいかが? と
すすめられたら

    ラン!

(p.72)
―――――――――――――――――――――

 最後の三行「If he offers/you a bun/Run!」、うえでは直訳してみた。これでも通じないことはないが、「ラン!」というのはいかにも詩情に欠けるし、そもそもこれでは翻訳とは呼べないので、わたしとしてはぜんぜん許容できない。厄介なのは「bun(パン)」のほうなので、ならばこいつをいじってしまえばいいのだ。そして思いついたのが、以下である。

―――――――――――――――――――――

うずらの卵食べる? と
すすめられたら

    ずらかれ!

―――――――――――――――――――――

 いや、これも駄目かもしれない。サメはうずらの卵は食わないだろう。知らないけど。やはり妥当なのは以下のものだろう。

―――――――――――――――――――――

おにぎり食べる? と
すすめられたら

    逃げろ!

―――――――――――――――――――――

 ピクニックなので、ここはやはりおにぎりであるべきだ。パンなんか食うかよ。でも「おにぎり」も「逃げろ」も、ちょっと語彙としてあまりに自然すぎるので、「うずら」「ずらかれ」の誘惑には勝てない。不自然なほうが人を突き刺す、と、ロラン・バルトも言っていたではないか(『明るい部屋』)。なにか良いのを思いついた方がいたら、ひっそり教えてほしい。

 新年早々なにやってんだよ、と自分でも思ったので、ここでやめておこう。Roger McGoughは大変愉快な詩人なので、おすすめである。また手に取りたい。

Imaginary Menagerie

Imaginary Menagerie

 


〈読みたくなった本〉
 同じ出版社のシリーズが巻末に紹介されていたので、これらもいつか読んでみたい。
Rachel Rooney, The Language of Cat

The Language of Cat and Other Poems

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Tony Mitton, Come into This Poem

Come Into This Poem

Come Into This Poem

 

James Carter, Hey, Little Bug!

Hey Little Bug: Poems for Little Creatures

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