フランス7つの謎
僕は基本的に高い本を買えないので、安い新書を読むことが多いです。新書は非常に様々なジャンルを持ったプロダクトで、それ自体で完結することを目的としていないため結局のところ触発されて、高い本をいつの間にか買っているということも少なくないのですが、そんな貧乏学生を声高に応援してくれる本があります。
小田中直樹『フランス7つの謎』文春新書、2005年2月。
先日紹介した軍司泰史の『シラクのフランス』が現代フランスの「政治」を追う上での最良の入門書であるのなら、この『フランス7つの謎』は現代フランスの「文化」を追う上での最良の入門書であると言えるでしょう。
これだけ「新書」という形態を有用している本はそうそう無いでしょう。いささか走りすぎている嫌いもあるものの、ここまで問題提議を目的とした本は非常に珍しいです。
小田中直樹は東北大学の教授ですが、ジャーナリストかと思わせるほど読みやすい文章を書いています。本書は1時間半もあれば読破できるもので、問題提議を主に置いているという点から小難しい専門的な話はほとんど無し、文体も口語で非常にわかりやすいものです。
以下目次。
はじめに フランスは謎である
第1の謎 なぜ政教分離をめぐって延々と議論が続くのか
第2の謎 なぜいつでもどこでもストに出会うのか
第3の謎 なぜ標識がバイリンガル表記なのか
第4の謎 なぜマクドナルドを「解体」すると拍手喝采されるのか
第5の謎 なぜアメリカを目の敵にするのか
第6の謎 なぜ大学生がストライキをするのか
第7の謎 なぜ美味しいフォーやクスクスが食べられるのか
おわりに フランスの歴史、日本の現在
これらの「謎」は解き明かされ、最終的に問題提議として読者に課題を課しています。そしてこれらの問題をより学問的に解き明かすための「参考文献欄」が用意され、この「参考文献欄」が秀逸です。というよりもむしろ、この「参考文献欄」の充実がこの本に立派な価値を与えていると言っても良いでしょう。
それぞれの章末に付された「参考文献」の数は全体で100冊を超え、小田中の簡単な解説と共に向学心を湧き立たせてくれます。
褒めてばかりいても仕方がないので批判もいれると、小田中はあまりにも自分の思想を隠しすぎています。というのも彼の「参考文献欄」に並べられた膨大な書を追うと、彼がフランスの社会学者ピエール・ブルデューや、先日挙げた『日本という国』の著者小熊英二の意見を積極的に取り入れているのは明らかなことだからです。
問題提議を目的としている以上、論理を複雑にすることを避ける必要があったのでしょうが、もう少し語って欲しかったな、というのが率直な意見です。が、それも彼の他の著作に触れれば解決される程度のことなので、やはりこの本は問題提議を目的としている以上、最良と言えるでしょう。
内田樹という哲学者が『寝ながら学べる構造主義』(文春新書、2002年6月)で次のように述べています。
「私は「専門家のための」解説書や研究書はめったに買いません。
つまらないからです。
しかし、「入門者のための」解説書や研究書はよく買います。
おもしろい本に出会う確立が高いからです。」(前掲書、「まえがき」)
全くもって、『フランス7つの謎』は「入門者のための」「おもしろい本」である、と言えるでしょう。
上記の『寝ながら学べる構造主義』も素晴らしい本なので、機をみて紹介します。