鼻/外套/査察官
「ロシア写実主義文学の祖」と評されるゴーゴリの、代表作三篇の新訳。
ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ(浦雅春訳)『鼻/外套/査察官』光文社古典新訳文庫、2006年。
二篇の小説は落語調に訳されている。それがネックで購入を控えていたのに、読んでみると全く気にならないどころか、他にどう訳せばこれ以上のリズムを生み出せるのかと頭を傾げてしまったほどだ。もう一つの戯曲「査察官」も文句なしに面白い。ケストナーの『雪の中の三人男』を思い出した。どの作品もそれほどユーモラス。だが、ケストナーとは異なり、ゴーゴリにはちゃんと完全な悪役も登場する。
ドストエフスキーの名言に「われわれはみんなゴーゴリの『外套』から生まれた」というものがある。確かにその多声性、登場人物たちの際立った個性はドストエフスキーのそれと通ずるものがあった。訳者はこれを「瑣末な細部への執拗なこだわり」と書いている。
「たしかにどれもこれもおかしなことばかりです。どれもあり得ることじゃあない……でも、どうです、世の中には間尺に合わないことってあるんじゃないですか? つらつら考えてみますってえと、この話には、たしかに何かある。誰がなんと言おうと、こういう出来事ってのは世の中にはある。滅多にあるわけじゃございませんが、ある話でございますな」(「鼻」66ページ)
ありえないような話ばかりなのに、気味が悪いほどリアル。
「てめえたちなんざ縄でひっくくって、粉みてえにすりつぶし、悪魔の着物の裏地や帽子のなかに詰め込んでやる!」(「査察官」331ページ)
何故ここまで言われるのか、気になった人には是非手に取ってもらいたい。笑いたい時に読むべき本。非常にオススメです。