のぞき
芸術か猥褻か、と問われたら、間違いなく猥褻に属してしまう官能小説二篇。
コーニー・オハラ(伊東守男訳)『のぞき』富士見ロマン文庫、1979年。
コーニー・オハラの表題作の他に、ピエール・ルイスの「女性のための社交術」が併収されている。どちらも翻訳は伊東守男。何やってんだよ、と言いたくなる。
「のぞき」の方は完全に官能小説だ。文学ではない。扇情的な描写の数々は確かにエロティックだが、文学として読もうとすると、クソみたいにつまらない。展開が急だし、途中からどうでもよくなってしまった。
それに引き換え、ピエール・ルイスはすごい。さすがの一言に尽きる。一生ついていきます。
以下は全て「女性のための社交術」からの引用。これは貴族の家庭の若い女性のために書かれた、道徳教本である。
「バルコニーに立って唾を吐いてはいけない。特に、口いっぱいに精液を含んでいるようなときは、なおさらそうだ」(171ページ)
「食事で何を食べるかと訊かれたときに「わたし精液しか飲みませんの」などと答えてはいけない」(173ページ)
さすがである。フランスの生んだ稀代のド変態が、やりたい放題である。
「海水浴に行ったときには、まわりにいる人におしっこをしてもいいかなどと尋ねてはいけない。勝手にやりなさい」(203ページ)
「人気のない場所で鉄道坑夫からむんずと腕を掴まれたとしたら、すぐに彼にやらせてしまいなさい。それが強姦されない、いちばん確かな方法だ」(207ページ)
「お父さまから吸っておくれと頼まれたとき、うっかりして、お父さまのペニスは女中のあそこの匂いがするなどと言ってはいけない。どうしてあなたがそんな匂いを知っているのか、彼が疑問に思うかもしれないからだ」(212ページ)
「お母さまからだれにいちばんキスがしたいかと訊かれたとき「女中のお尻よ」などと答えてはいけない」(214ページ)
以下は「言ってはいけないこと」シリーズ。
「「彼女はまるでおしっこをする雌馬みたいに夢中になってたわ」などと言ってはいけない。「あの女すごい情熱家よ」とお言いなさい」(234ページ)
「「あの女ぶっ倒れるまでマスを掻くのよ」などと言ってはいけない。「あの女センチメンタリストよ」とお言いなさい」(235ページ)
「「あの女は地上最大の淫売婦だわ」などと言ってはいけない。「あの女は世界一の善人よ」とお言いなさい」(235ページ)
「「わたしあの女が両方の穴にキスをするのを見たわ」などと言ってはいけない。「あの女はすごい感受性を持ってるわよ」とお言いなさい」(235ページ)
もはや本棚に常備しなければならない。勿論、上からカバーをかけて。コーニー・オハラは全く要らないから、ピエール・ルイスだけを取り出して復刊できないものだろうか。古本屋で見かけたら、迷わず買いましょう。
<読みたくなった本>
ピエール・ルイス『ビリチスの歌』
→翻訳が鈴木信太郎だから、堀口大學ファンとしては手を出したくない。他の翻訳が出ることを待ち望んでいる。
追記(2014年9月29日): この記事を書いたときには気づいていなかったらしいが、沓掛良彦訳が2003年に刊行されている。
ピエール・ルイス『アフロディテ』
→平凡社ライブラリーから出ている。
- 作者: ピエールルイス,Pierre Lou¨ys,沓掛良彦
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1998/01
- メディア: 単行本
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