Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

月光とピエロ

メロディを知らなくても唄い出してしまいそうになる、堀口大學による最初の自作詩集。

月光とヒ゜エロ (愛蔵版詩集シリーズ)

月光とヒ゜エロ (愛蔵版詩集シリーズ)

 

堀口大學『月光とピエロ』日本図書センター、2006年。


日本図書センターから刊行されている、「愛蔵版詩集シリーズ」の一冊だ。刊行当時の装丁を大切にした作り方で、持っているだけでテンションが上がる。他にも井伏鱒二武者小路実篤宗左近も出ている。どれも一冊三千円以内で購入できるもので、この作りを考えると非常に安いように感じられる。


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ピエロ

ピエロの白さ!
身のつらさ!

ピエロの顔は
真白け!

白くあかるく
見ゆれども

ピエロの顔は
さびしかり!

ピエロは
月の光なり!

白くあかるく
見ゆれども

月の光は
さびしかり!

(「ピエロ」15~17ページ)
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気に入ったものをどんどん挙げていく。

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理想

人間らしき生き方
唯一つあり。
かなしむ為に
生きるなり!

(「理想」30ページ)
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彼等

彼等よく知る、
よろこびに
果あることのかなしさを。
彼等は知らず、
かなしみに
果あることのかなしさを。

(「彼等」49ページ)
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秘密

秘密は心の宝玉、
若さの涙。
恋をめぐる衛星、
夜のかくし児。
秘密は恋人の懐剣、
虚偽の女王の唇。
ロマンチツクのパン種、
幸福の酩酊。

(「秘密」60~61ページ)
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虫のいのち

夢の間の
露のいのちと
知りもせで、
蛍が光る、
鈴虫が鳴く。

(「虫のいのち」138ページ)
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やはり、一回読んだだけではどうしてもシンプルな詩の方に目がいってしまう。「虫のいのち」がすごく良い。今後手に取る度に、他の詩を見つけると思うと非常に嬉しい。「こんな詩もあったんだ」と、何度も思いたい。

「なげき」という同じ題で、三つの詩が並んでいる。ひどく悲しい恋の歌。

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なげき

愛せらるるは薔薇の花。
愛することは薔薇の棘。
花はあまりに散り易し。
棘はあまりに身に痛し。

(「なげき」173ページ)
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なげき

恋のよろこび消えやすく
残るなげきの果しなや!
さればわれ云ふ、われ等皆
生き甲斐もなき世に生くと!

(「なげき」174ページ)
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なげき

かなしからずや、ばらの花、
花は散りても花の香は
なほも名残に匂ひけり。

せつなからずや、人の恋、
恋は失せても思ひ出は
ながく心にのこりけり。

(「なげき」175ページ)
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「朝のスペクトル」と題された非常に良いので、少し長いが最後に載せておく。

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朝のスペクトル

これもその頃の事なんです。
(私は今さびしくそれを思ひ出す。)
私が幸福に満ちてゐた、
これもその頃の事なんです。

銀いろの前額を持つた朝が来て、
私は快く眠からさめる、
そして私は先づ
私の片頬にからみついた
絹糸の様にやはらかなお前の髪の毛を
そつと払ひのける、
(そつと!お前の眠を驚かさぬ様に!)
然し、お前は私のこの相図を待つてゐたかの様に、
そっと片目だけ開く、
まぶし相に、
次で微笑と一緒に、
も一つの片目が開く、そして、
“BON JOUR; AMOUR!”

空いろの天鵞絨の上に散らばつた
黄金いろの真珠のすだれの様に
光の中に輝いて
白い布の上にひろがつたお前の髪。
それから桃いろの二つの頬。
火焔の花びらの様な唇。
夢の窓の様な二つの目、
(左の窓からは若さが、
右の窓からは幸福がのぞいてゐた!)
下したての白粉刷毛の様な
やはらかなそしてやさしい腕。
明日満開になるであろう
肉の花の乳房。
そして私の身体中の
一番心臓に遠いあたりで
私の足にさはるお前の足!

半目さめ乍ら、
半ねむり乍ら、
「人生」がどんなに美くしいものに
私に感じられたであらう!……
その頃私にはお金があつた、
その頃私は健康だつた、
そしてその頃、
私は若かつた、
(これ等のことは
今もその頃も
別に変はないが……)
変り果たのは私の朝の寝床!
さびしく一人、白い寝床にめさめて、
私は今、こんなことを思ひ出すのだ。

これもその頃の事なんです。
私が幸福に満ちてゐた、
これもその頃の事なんです。

(「朝のスペクトル」143~148ページ)
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何度も読み返したい。

月光とヒ゜エロ (愛蔵版詩集シリーズ)

月光とヒ゜エロ (愛蔵版詩集シリーズ)