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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

ホメロス伝

岩波文庫版『イリアス』下巻に併収されている、ホメロスの伝記。

イリアス〈下〉 (岩波文庫)

イリアス〈下〉 (岩波文庫)

 

ヘロドトス(伝)(松平千秋訳)「ホメロス伝」『イリアス』下巻、岩波文庫、1992年。


成立は後2世紀頃と推測され、作者はヘロドトスを自称している。ここではホメロスはスミュルナに生まれたものとされ、終焉の地はイオスである。ホメロスの出自は諸説あり、『ホメロス伝』の語る内容も疑わしいものだが、当時の吟遊詩人の暮らしぶりが窺えて面白い。

スミュルナに生まれた少年メリシゲネスは、母クレテイスの主人ペミオスの許で教養万般を学び、成人すると学塾の教師になる。メンテスという男に誘われ塾を閉めて旅に出ると、旅先で眼を患い視力を失う。ホメロス(盲人の意)と呼ばれるようになった彼は、自らの闇の中で詩作に専念するようになる。

「人の世に思いもよらぬことは数あるが、
 人の心ほど判らぬものはない」(465ページ)

物乞いをしながら詩を詠み生計を立てるホメロスに、人々は敬意を払う。『イリアス』『オデュッセイア』に見られる何人かは、彼が実際に世話になった人々から名前を採っているそうだ。また彼が滞在した土地の多くは詩作の中に登場している。

訳者である松平千秋からの、ちょっと素敵な「おまけ」である。

イリアス〈下〉 (岩波文庫)

イリアス〈下〉 (岩波文庫)