愛と暴力の現代思想
『無産大衆神髄』の時に少し触れた、矢部史郎・山の手緑の新刊。
ようやく読み終わりました。
矢部史郎・山の手緑『愛と暴力の現代思想』青土社、2006年5月。
『無産大衆神髄』同様、矢部・山の手両氏が『文藝』『現代思想』『情況』などに寄せた論文をまとめたもの。『無産大衆神髄』が1997年から2000年までに書かれた論文を集めたものに対して、本書は2000年から2006年までの論文を集めたものです。
今回は対話形式の論文が前回に比べて著しく少なくなっていて、その分学問的な現代社会に対する批判が多く見られるものになっています。
以下目次。
愛と暴力の化け物世界へ
恐怖力
プーさんとドキュン
アナキズムとフェミニズムは似ている、性別は違うのでしょうが
性差と4コマ
新たなる階級闘争とは何か
移動と再生産と戦争機械――平滑空間で愛を叫ぶ
ようこそ化け物の世界へ
資本主義のキモ
テナルディエ問題とは何か
六〇年前の亡霊にではなく、学生に賃金を
昨今の「ゆとり教育」と労働実話
声明なき攻撃
学生に賃金を
強者と弱者が反転する
野蛮人になるために考えたこと
道路に屈服しないために――「生活安全条例」を考える
新自由主義のアナーキー
追悼機械とひきこもり
管理社会のシックスセンス
職業、労働、アカの他人
労働者、有罪
社会には窓があってもゴミ箱がない
世界の一切を“それ”にすること
虐殺・トリアージ・“生きた労働”の管理
反防災のノート
反労働の暴力へ
暴力、大切
一読した結果、特定のトピックについての言及が多く見られました。
まず国際人権規約の問題。「学生に賃金を」といった題に見られるように、「高等教育の漸進的無償化」を定めた国際人権規約13条2項についての言及が多く見られます。
次に反戦落書きの問題。特に2003年4月、杉並区わかば公園において「戦争反対」「反戦」「スペクタクル社会」と書いた若者を取り扱った「落書き裁判」の不当性を描き、批判を加えています。
さらに反防災という問題。「災害にそなえて云々」といった行政のやり方への批判が多く見られます。
「女性」の位置を捉えなおそうという試みも随所で見受けられ、そしてこれらのトピック全てに共通する問題として、やはり「労働」が挙げられています。
個人的には「移動と再生産と戦争機械」や「道路に屈服しないために」、「反労働の暴力へ」が刺激的で面白かったです。勿論他の文章も劣らず興味深いものでしたが。
しかしここまで現代日本を嫌いにさせてくれる本もなかなか無いでしょう。
非常に面白かったです。無条件にオススメします。