ちょっとピンぼけ
世界的に有名な戦時記者が記した、第二次世界対戦の記録。
ロバート・キャパ(川添浩史他訳)『ちょっとピンぼけ』文春文庫、1979年。
これだけの文章を書くキャパが、物書きを生業とする者ではないことに嫉妬すら覚える。
流麗な言葉の数々が、時には哄笑を、また時には涙を誘う。上手いとしか言いようがない。
「私のカメラのファインダーのなかの数千の顔、顔、顔はだんだんぼやけていって、そのファインダーは私の涙で濡れ放題になった。」(181ページ)
正直、戦場でシャッターを切るという行為は冷徹な感情無しには不可能なことだと思っていた。しかしキャパは涙を流しながら、死んでいく兵士たちや解放されたパリを写していたのだ。
「昇降口の扉が開いた。乗組員の一人が運びおろされると、待ちかまえた医者に引渡された。彼は呻いていた。次におろされた二人は、もはや呻きもしなかった。最後に降りたったのはパイロットであった。彼は、額に受けた裂傷以外は、大丈夫そうに見えた。私は彼のクローズ・アップを撮ろうと思って近よった。すると、彼は途中で立止って叫んだ、
――写真屋! どんな気で写真がとれるんだ!
私はカメラを閉じた。そして、さよならもいわないで、ロンドンに向って出発した」(50~51ページ)
話の中にはヘミングウェイやスタインベックが、彼らの作品を読んでいるだけでは絶対に知り得ない、生の姿で登場している。キャパの親しい友人であった彼らのエピソードは、それ自体興味深いものだ。
俯瞰された戦争は、淡々と語られる度にその残酷さを増しているように思えた。