神さまの話
堀辰雄も愛した詩人リルケの、子どものために大人に聞かせる神さまの物語。
ライナー・マリア・リルケ(谷友幸訳)『神さまの話』新潮文庫、1953年。
「神さまの話」というテーマの下に書かれた13編の短編集。一つ一つ独立した物語が連続する世界で語られ、読後の感覚は短編連作というよりも長編に近かった。
物語を紡ぐスタイルが独特である。子どもたちに語ってもらうために、作家が大人に話を伝える。聞き手は大人から大人へと移り変わり、時には雲や闇がその役を担う。
以下、収録作品。
「神さまのお手についての物語」
「見知らぬひと」
「神さまは いかなる思召しで この世に貧しいひとびとをお造りになったか」
「どうしてロシアへ裏切りなどがやってきたか」
「ティモファイ老人が 歌いつつ世を去ったこと」
「正義のうた」
「ヴェニスのユダヤ人街で拾ったある場景」
「石に耳を傾けるひとについて」
「指甲が神さまとなるにいたったこと」
「死についての物語ならびに筆者不明の追記」
「切なる要望にもとづいて生れた協会」
「乞食と気位たかい少女」
「闇にきかせた話」
正直、一つ一つの作品に別々の評価をする気にはなれない。先述した通り、短編連作というよりも長編なのだ。あえて挙げれば「石に耳を傾けるひとについて」と「指甲が神さまとなるにいたったこと」が好きだった。読んでいる時の集中の度合いの問題かもしれない。
最初の内は一つを読み終える度に「え、オチは?」と思ってしまうが、次第に慣れる。リルケのどことなく高慢な感じも、次第に慣れる。
今の世界は神さまの第七の日の延長であって、第八の日は未だに到来していないそうだ。我々人間は、神さまの休息中にのさばった存在に過ぎない。
池内紀による解説が素敵だった。
「『神さまの話』を読んでも少しも神さまは近づいてこないが、作者リルケはぐっと近い人になる」(解説より、205ページ)
リルケに近づくための本、あるいはリルケをこちらに引き寄せるための本だ。最初の一冊には、向かないのかもしれない。