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「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

死者

二見書房刊の『ジョルジュ・バタイユ著作集』にて、「空の青み」と併収された小品、「死者」。 

死者/空の青み (ジョルジュ・バタイユ著作集)

死者/空の青み (ジョルジュ・バタイユ著作集)

 

ジョルジュ・バタイユ(伊東守男訳)『ジョルジュ・バタイユ著作集第4巻:死者/空の青み』二見書房、1971年。


先日紹介した河出文庫『空の青み』は、元々この本に収められていたものである。完全に同じものなので、ここでは文庫に収められなかったもう一つの作品、「死者」を紹介したい。

「エドワールが死に倒れたその時、彼女の内に空洞が生じ、尾を引く戦慄が体内を走り抜け、天使のように彼女を高みへと持ち上げた。露の両の乳房は、夢の教会の内にそびえ立ち、その内にあって彼女はもう、すべて取り返しのつかないという思いから憔悴しきっていた。死人の横にただ立っていて、しかも心はそこになく、虚空に浮き、緩慢、かつ打ちひしがれた恍惚感に身をゆだねていた。自分でも、もうすべてに絶望しきっているのがわかっていたが、そんな絶望感をもてあそんでいた。エドワールはその臨終に際して、彼女に裸になってくれと懇願した。
 だが、間に合わなかったのだ。彼女は、髪を振り乱して立ちつくしていた。急ぐあまり引きちぎられた服から、わずかに両の胸が飛び出していただけだ」(9ページ)

『目玉の話』(あるいは『眼球譚』)に見られたような、下品さを通り越した上品さはここには全く見られない。ひたすらに下品である。実際、訳者である伊東守男は、この本を「エロ本以外の何物でもない」と評している。

「「また、あたしのところに来たいなんて、あんた悪魔かなにかじゃないの」と彼女が訊ねた。
 「ああ、そうなんだ」と矮人が答えた。「よく人から悪魔だなんて言われたものだよ」
 「悪魔、そうなの」とマリーが言った。「私は悪魔の前でうんこをするから」
 「今は吐いていたじゃないか」
 「私うんこするから」
 彼女はうずくまると、いま吐いたげろの上にくそをした。
 怪物はひざまずいたままだった。
 マリーは樫の木に背を寄せかけた。汗だくで、恍惚となっていた」(48~49ページ)

登場人物の誰もが、欲望と狂気にとりつかれている。

「裸体……
 むごいこと……」(10ページ)

バタイユでなければ書けない。読後の侘しさは、これが単なるエロ本などではないことを証明している。

薦めはしない。だが、バタイユの描く狂ったロマンチシズムに、完全に魅了されてしまった。

死者/空の青み (ジョルジュ・バタイユ著作集)

死者/空の青み (ジョルジュ・バタイユ著作集)