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Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

雑記:愛書家双書について

配架-雑記・ブックリスト テーマ-愛書狂

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 「Les Livrets du bibliophile(愛書家双書)」というシリーズをご存じだろうか。いや、知っている人はそうそういないだろうと思ったから記事にしているわけだが、これがまたとても魅力的な双書なのだ。


 出版元はパリのアヴリーヌ書房、1926年のことだ。調べて確認できたかぎりでは10巻が刊行されていて、おそらくどれも350部の限定本。これは、のちのち作家としての名声も獲得することになったクロード・アヴリーヌという出版人が、なんと25歳のときに編んだシリーズ、ごく少数の愛書家だけを対象に、出版・販売した特装本群なのである。アナトール・フランスの熱烈な信奉者にして若い友人であったこの男、クロード・アヴリーヌは、「世界一若い出版人(le plus jeune éditeur du monde)」を自称していたそうだ。ミステリー作品『ブロの二重の死』など、少なからぬ翻訳も刊行されている。

 実物を見たことがないので確かなことはなにも言えないのだが、まずまちがいなく、一冊はとても薄い。これはごく短い短篇作品を一冊の書物に仕立て上げた贅沢本なのである。「シャルル・ノディエの思い出に」という標語も、紹介せずにはいられない。

 以下が、愛書家たちの垂涎の的たるシリーズの全貌である。

01. Charles Nodier, Le Bibliomane
邦訳あり。シャルル・ノディエ(生田耕作訳)「ビブリオマニア」『愛書狂』白水社、1980年。感想(※リンク先は『フランスの愛書家たち』)

02. Paul Claudel, La philosophie du livre
おそらく邦訳なし。ポール・クローデル「書物の哲学」。1928年に一冊の書籍としてまとめられた詩論・作家論集『Positions et propositions(立場と提言)』に収められた一篇。

03. Anatole France, Le livre du bibliophile
おそらく邦訳なし。アナトール・フランス「愛書家の書物」。正直、わからないことだらけな一冊。フランス語版ウィキペディアによると、1874年刊行、アナトール・フランスの作と見なされている(!)とのことだが、ガリマール社が発行しているプレイヤード叢書にも評論は含まれておらず、その後の『文学生活(La Vie littéraire)』などの評論集に収められたかどうかということすら、はっきりしない。『文学生活』は抄訳版が、白水社より1937年に刊行されているが、刊行が古いこともあって確認できていない。知っている方がいたらぜひとも教えて欲しい。なお、フランス語版ならこちらで、(おそらく)全文を読むことができる。

04. Claude Aveline, « Les Désirs » ou Le livre égaré
おそらく邦訳なし。クロード・アヴリーヌ「≪欲望≫、または失われた書物」。「égaré」を「失われた」と訳したが、「失われた」だと普通は「perdu」という語を使うので、原義的には「紛失された」または「行方不明になった」という意味だと付け加えておく。

05. Stéphane Mallarmé, Quant au livre
邦訳あり。ステファヌ・マラルメ(松室三郎他共訳)「書物はといえば」『マラルメ全集II ディヴァガシオンほか散文作品』筑摩書房、1989年。ただし、冗談みたいに高い。

06. Paul Valéry, Notes sur le livre et les manuscrits
邦訳あり。ポール・ヴァレリー生田耕作訳)『書物雑感』奢覇都館、1990年。感想

07. Gustave Flaubert, Bibliomanie
邦訳あり。ギュスターヴ・フロベール生田耕作訳)「愛書狂」『愛書狂』白水社、1980年。感想

08. Valery Larbaud, Ce vice impuni La Lecture
邦訳あり。ヴァレリー・ラルボー岩崎力訳)『罰せられざる悪徳・読書』みすず書房、1998年。感想

09. Charles Asselineau, L'enfer du bibliophile
邦訳あり。シャルル・アスリノー(生田耕作訳)「愛書家地獄」『愛書狂』白水社、1980年。感想

10. Georges Duhamel, Lettre sur les bibliophiles
邦訳あり。ジョルジュ・デュアメル(生田耕作訳)「書痴談義」『書痴談義』白水社、1983年。感想

 どうだろうか。日本でも著名な作家が多いので、半数以上の作品が翻訳されており、努力次第で今でも手に入る。最難関はマラルメだ。マラルメの研究者はとにかく数が多いと思うのだが、彼らは一般読者たちにこの作家の魅力を伝える気がないのだろうか。全集が刊行されているとはいっても、一冊あたり二万円もしていたら、研究者でもなければなかなか手が出せないだろう。

 とりわけ気になるのはアナトール・フランスだ。電子版では読む気がおきないので、フランスに行って探してみたいと思う。クロード・アヴリーヌも、翻訳される見込みは薄いだろう。ポール・クローデルに関しては、フランスでも再評価の機運が高まっていることだし、これから日本でも盛り上がってくるかもしれない。