Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

眠れる美女

友人がさまざまな文学作品の書き出しをコレクションしていて、それを見せてもらったとき、ひときわ輝いていた一冊。 眠れる美女 (新潮文庫) 作者: 川端康成 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1967/11/28 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 102回 この商品…

シルヴェストル・ボナールの罪

すでにずいぶん前のことのように思えるが、じつはほんの二ヶ月前、わたしはフランスにいた。現在住んでいる国に引っ越す前の最後のバカンス、という名目で、友人たちを訪ねまわっていたのだ。これは、そのときに携帯していた本である。読み終えたのは、パリ…

本へのとびら

すこし前、たしか去年のことなのだが、『ジブリの本棚』というDVDを購入した。とはいえ、目的はDVDよりも付録のほうにあって、このDVDには「宮崎駿が選ぶ岩波少年文庫の50冊」という、豆本サイズのたいへん魅力的な小冊子が付いていたのだ(ちなみに、DVD自…

ふふふん へへへん ぽん!

先日訃報に接したばかりの、モーリス・センダックの作品。江國香織の『絵本を抱えて部屋のすみへ』に紹介されていて、読みたくなったもの。 ふふふんへへへんぽん!?もっときっといいことある 作者: モーリスセンダック,Maurice Sendak,神宮輝夫 出版社/メー…

コルシア書店の仲間たち

大声で愛を表明せざるをえない、というわけではないけれど、一定期間を置くと不意に読みたくてたまらなくなる作家、というのがいる。須賀敦子はわたしにとって、そんな作家のひとりだ。 コルシア書店の仲間たち (文春文庫) 作者: 須賀敦子 出版社/メーカー: …

絵本を抱えて部屋のすみへ

思うところがあって、ずっと更新をしていなかった。本を読んでいなかったわけではないのだが、読み終えた一冊と向き合い、その印象を書き留めるという作業に、意味を見出せなくなっていたのだ。しかし、半年ほど書くのをやめていたおかげで、気のせいなのか…

雑記:好きな作家ベスト100(2011年版)

友人たちと恒例にしている年末行事、公開した途端に後悔するおそるべきリスト、「好きな作家ベスト100」の2011年版を掲示します。 もともとは「好きな作家はだれ? って聞かれると困るよね」という、なにげない会話が発端だったと思います。「何人まで答えて…

地下鉄のザジ

ほんとうにおもしろいものは、何度読んでもおもしろい。もう一度言う。ほんとうにおもしろいものは、何度読んでもおもしろい(しつこい)。初めて読んだのは生田耕作訳(ちなみに、そのときの記事。これを書いたのがかつての自分だなんて、信じたくない)、…

サリー・マーラ全集

1947年の『皆いつも女に甘すぎる』と1950年の『サリー・マーラの日記』をまとめあげた1962年版『サリー・マーラ全集』。そのときに付け加えられた「序文」と、「もっと内密なサリー」について。 サリー・マーラ全集 (レーモン・クノー・コレクション) 作者: …

サリー・マーラの日記

『皆いつも女に甘すぎる』の三年後に刊行された、サリー・マーラ名義のもうひとつの作品。 サリー・マーラ全集 (レーモン・クノー・コレクション) 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,中島万紀子 出版社/メーカー: 水声社 発売日: 2011/10 メディア: 単行…

皆いつも女に甘すぎる

わたしは馬鹿馬鹿しいことに真剣に取り組む人が好きだ。だから、いちばん好きな作家はいつまでたってもレーモン・クノーなのだ。 サリー・マーラ全集 (レーモン・クノー・コレクション) 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,中島万紀子 出版社/メーカー: …

思考の表裏

さきの『ヴァレリー詩集』と同様、『ヴァレリー文学論』が含まれている一冊。『ヴァレリー文学論』と関係があるという時点で、この本は最高評価が確定している。とはいえ、この本の魅力はそれだけではない。 思考の表裏 作者: ポォル・ヴァレリィ,アンドレ・…

ヴァレリー詩集

さきに紹介した『ヴァレリー文学論』をまるごと含んだ、ほるぷ出版「フランス詩人選」の一冊。装幀はピエール・カルダン。前半30ページに「十二詩編」を含んでいるため、別枠で紹介することにした。 ヴァレリー詩集 (1982年) 作者: 堀口大学 出版社/メーカー…

ヴァレリー文学論

本を読んでいて感嘆する一文に出会ったとき、わたしはそのページの端を折る。そして、同じページのうちにいくつもそのような輝ける一文があったときには、ページのもうひとつの端も折る。だが当然ながら、折れる端の数には限界があり、片方のページを二度も…

零度のエクリチュール

感動した。わたしはいま、猛烈に感動している。過去に二度挑戦し、二度とも読破を諦めた本を、おおいに楽しみながら読むことができたからだ。自分が成長した部分も少なくないのかもしれないが、いまならこう断言できる。それはむしろ忍耐力と内容への関心の…

剽窃の弁明

最近、ふたつの言葉の厳密な定義を知りたくて仕方がない。「剽窃」と「模倣」である。前者は悪徳として、後者は敬意の表明として扱われるものなのだろうが、うまく言葉にできない。そこで手に取った一冊。 剽窃の弁明 (エートル叢書) 作者: ジャン=リュック…

性についての探究

アンリ・カルティエ=ブレッソンのエッセイ『こころの眼』に登場したアンドレ・ブルトンの姿を見て、思い出した一冊。シュルレアリストたちが性について語り合った記録である。 性についての探究 作者: アンドレブルトン,野崎歓 出版社/メーカー: 白水社 発…

こころの眼

バルトの『明るい部屋』をきっかけに、手を伸ばした一冊。写真家の友人が、どういうわけかわたしにプレゼントしてくれた本である。しかし、あまりにも昔のことなので、その理由がどうしても思い出せない。つまりそれだけの期間、わたしは進呈された本を棚で…

明るい部屋

先日『短歌の友人』を読んで以来、細部というものの重要性が自分のなかで急上昇している。というより、重要なのは細部だけなのだ、ということに、ようやく気がついたと言うべきだろう。文学作品の「あらすじ」がなんの魅力も持たないのは、そこから細部が削…

雑記:ペレックが死ぬまでにしたい50のこと

以前フランスの大学に通っていたときに、教授から奇妙な紙を渡されたことがあった。「好きでしょ?」と言われながら。最上部に「Georges Pérec : Cinquante choses que je voudrais faire avant de mourir」とある。つまり、「ジョルジュ・ペレック:死ぬま…

ヴェネツィア

アンリ・ド・レニエの『水都幻談』の影響で猛烈に読みたくなった、ヴェネツィアを題材にした文学作品。この本の存在はずっと以前から知っていて、購入したのもいつだったか思い出せないほど昔のことなのだが、きっかけを見つけられないまま、結局ずっと本棚…

水都幻談

先日古本屋巡りをしていたら、フランス文学者である窪田般彌のエッセイ集に出会った。『カザノヴァ回想録』を代表作とする訳者だけあって、ヴェネツィアに関するたくさんのことが語られている一冊だ。そこに、レニエの名前もあった。「お、レニエの本、たし…

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話

先日『ムッシュー・テスト』と果たした喜ばしい再会を機に、手に取った一冊。プラトンを範にとった、ヴァレリーによる三篇の対話篇。 エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫) 作者: ポールヴァレリー,Paul Val´ery,清水徹 出版社/メーカー: 岩…

ムッシュー・テスト

友人が書いたとても短い文章に、駆りたてられるようにして読んだ一冊。じつはずいぶん前に読んで、なにひとつ、ほんとうになにひとつ理解できずに、読破を諦めた経験のある本。 ムッシュー・テスト (岩波文庫) 作者: ポールヴァレリー,Paul Val´ery,清水徹 …

本当はちがうんだ日記

岸本佐知子の『気になる部分』と同様、読書に疲れたときに読んでいた一冊。先日『短歌の友人』を読んで以来ずっと気になっていた、穂村弘のエッセイ集。 本当はちがうんだ日記 (集英社文庫) 作者: 穂村弘 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2008/09 メディア:…

気になる部分

ルクレティウスや、ほかの大部な本を読みながら、読書に疲れたときに読んでいた本。先日家に遊びにきた友人が本の山から見つけ出してくれたので、読みなおしてみた。 気になる部分 (白水uブックス) 作者: 岸本佐知子 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2006/0…

物の本質について

アナトール・フランスは『神々は渇く』で、ルキアノスは『遊女の対話』で、さらにはモンテーニュは『エセー』でこぞって礼讃していた、古代ローマのラテン語黎明期に書かれた、一篇の叙事詩。神保町で発見し、一ヶ月ほどかけてゆっくりと読んだ。 物の本質に…

人さまざま

先日『ヘッセの読書術』を読んだときに、興味をかきたてられた一冊。アリストテレスの弟子にして同時代人、テオフラストスによる愛すべき小品。 人さまざま (岩波文庫 青 609-1) 作者: テオプラストス,森進一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2003/04/16 …

緋色の研究

久しぶりに推理小説でも読もう、と思いたち、手に取った一冊。光文社から刊行されている『新訳シャーロック・ホームズ全集』の第三巻にして、「ホームズシリーズ」の記念すべき長篇第一作。 緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫) 作者: …

書物の敵

ラングの『書斎』のなかで何度も言及されていて、読みたくなった本。ずいぶん昔に購入したのにずっと手をつけずにいたので、今がチャンス、とばかりに手に取ってみた。 書物の敵 作者: ウィリアムブレイズ,高宮利行,William Blades,高橋勇 出版社/メーカー: …