Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

評価-★★★☆☆(満足)

赤い百合

先日の『ジョカストとやせ猫』があんまりおもしろかったので、「このノリノリな気分なら!」と、大急ぎで手に取ったアナトール・フランスの長篇小説。この本はアナトール・フランスの長篇のなかでも長い部類に入るので、どうも後回しになってしまっていたの…

求愛瞳孔反射

信頼する友人が推薦しているのを知って、途端に興味を持った一冊。歌人である穂村弘の、短歌ではない詩集。 求愛瞳孔反射 (河出文庫) 作者: 穂村弘 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2007/04 メディア: 文庫 購入: 17人 クリック: 259回 この商品を含…

眠れる美女

友人がさまざまな文学作品の書き出しをコレクションしていて、それを見せてもらったとき、ひときわ輝いていた一冊。 眠れる美女 (新潮文庫) 作者: 川端康成 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1967/11/28 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 102回 この商品…

本へのとびら

すこし前、たしか去年のことなのだが、『ジブリの本棚』というDVDを購入した。とはいえ、目的はDVDよりも付録のほうにあって、このDVDには「宮崎駿が選ぶ岩波少年文庫の50冊」という、豆本サイズのたいへん魅力的な小冊子が付いていたのだ(ちなみに、DVD自…

剽窃の弁明

最近、ふたつの言葉の厳密な定義を知りたくて仕方がない。「剽窃」と「模倣」である。前者は悪徳として、後者は敬意の表明として扱われるものなのだろうが、うまく言葉にできない。そこで手に取った一冊。 剽窃の弁明 (エートル叢書) 作者: ジャン=リュック…

こころの眼

バルトの『明るい部屋』をきっかけに、手を伸ばした一冊。写真家の友人が、どういうわけかわたしにプレゼントしてくれた本である。しかし、あまりにも昔のことなので、その理由がどうしても思い出せない。つまりそれだけの期間、わたしは進呈された本を棚で…

緋色の研究

久しぶりに推理小説でも読もう、と思いたち、手に取った一冊。光文社から刊行されている『新訳シャーロック・ホームズ全集』の第三巻にして、「ホームズシリーズ」の記念すべき長篇第一作。 緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫) 作者: …

書物の敵

ラングの『書斎』のなかで何度も言及されていて、読みたくなった本。ずいぶん昔に購入したのにずっと手をつけずにいたので、今がチャンス、とばかりに手に取ってみた。 書物の敵 作者: ウィリアムブレイズ,高宮利行,William Blades,高橋勇 出版社/メーカー: …

書斎

先日紹介した『愛書狂』と『書痴談義』のあいだに刊行された、生田耕作と白水社による、もうひとつのすばらしい共作。せっかくなので、三冊すべてを紹介することにした。 書斎 (1982年) 作者: 生田耕作,アンドルー・ラング 出版社/メーカー: 白水社 発売日: …

書物雑感

今日、神保町古本まつりに行った。昨年はフランスに住んでいたために行けず、親しい友人たちから親しさを呪いたくなるような自慢を受けていたので、ようやく仕返しをすることができるというものだ。そのなかでも自慢に価するのは、この一冊だと思った。ポー…

書痴談義

先日紹介した『愛書狂』の三年後に刊行された、生田耕作の編訳によるもうひとつの「愛書小説」アンソロジー。 書痴談義 作者: P.ルイス,生田耕作 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1983/01 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る ピエール・ル…

神様 2011

どこから書名を知ったのかも定かではないが、珍しく母が欲しがって、先日ジュンク堂池袋本店に寄った際に、土産として買ってきてあげた本。一読した母に薦められ、手に取ってみた。 神様 2011 作者: 川上弘美 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011/09/21 メ…

サリンジャーは死んでしまった

以前友人が紹介しているのを読んでから、とても興味を持っていた一冊。彼女が採った以上の方法で、この本の魅力を伝えられるとも思えず、いっそのこと文章をまるまる引用してやろうか、と思ったりもするのだが、それでは完全な剽窃となってしまうので、どう…

饗宴

まだ前期作品群もぜんぜん読めていないというのに、関心が高じすぎて手に取ってしまった、プラトンの中期作品群を代表する一作『饗宴』。とはいえ、プラトンの平易な言葉づかいは前期作品のそれと変わることはなく、予備知識を蓄える必要などまったくないこ…

聖少女

すでに差し迫っている日までに、なんとしてでもこの作家の本を一冊読んでおかなければならない、という自分のうちに起こった強迫観念から手に取った一冊。必要に迫られた読書というのは、時間ばかりがかかって遅々として進まないものだが、この本に関しては…

日常礼讃

先日ピーテル・デ・ホーホのことを書いて思い出した、以前フランス語で読んだ美術批評。わたしが「以前フランス語で読んだ」とわざわざ書いている本は、たいてい、そのため十分に理解できなかった本である。 日常礼讃―フェルメールの時代のオランダ風俗画 作…

死刑執行人サンソン

すでに読んだことがある本を、それと気づかずに購入してしまったことはありませんか? そしてわくわくしながらページを開いて、ただならぬ既視感(というより、既読感)に襲われることはありませんか? ありますよね、いや、ぜったいあるはず。そんな懐かし…

地獄

向田邦子のエッセイ『父の詫び状』のなかで、魅力が語られていた一冊。日本でもフランスでも、今ではほとんど忘れられてしまった作家、バルビュスが1908年に発表した作品。 地獄 (岩波文庫 赤 561-1) 作者: アンリ・バルビュス,田辺貞之助 出版社/メーカー: …

プロタゴラス

じつに久しぶりな光文社古典新訳文庫。パラパラとページをめくっていたつもりが、あまりの読みやすさに一気に読み終えてしまった。 プロタゴラス―あるソフィストとの対話 (光文社古典新訳文庫) 作者: プラトン,中澤務 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2010/…

異国トーキョー漂流記

先日友人と会った折に、「外国から戻ってくると、今まで当たり前だと思っていた風景が日本独特のものだとわかる」というような話をした。それを受けて友人が薦めてくれた一冊。 異国トーキョー漂流記 (集英社文庫) 作者: 高野秀行 出版社/メーカー: 集英社 …

きことわ

確実な選書眼を持つ友人が激賞しているのを知って、興味を持った本。「芥川賞」という単語を耳にするたびに、生田耕作の書いた「芥川賞などを追いかけるくらいなら、古典でも読み返しているほうが余程良い」という言葉を思い起こすほど、賞自体にはまるで興…

夜の寓話

年末にまとめ買いをしたロジェ・グルニエ第二弾。先日の『フラゴナールの婚約者』と同じく短篇集だが、こちらはちょうど私が望む短篇集の厚さで、小気味よく読み進めることができた。 夜の寓話 作者: ロジェグルニエ,Roger Grenier,須藤哲生 出版社/メーカー…

フラゴナールの婚約者

年末にパリのブックオフで大人げないほどの大人買いをした日本語書籍のうちの一冊。ロジェ・グルニエのフランス語書籍は残念ながらほとんどが絶版になってしまっていて、日本語のほうが遙かに見つけやすくなってしまっている。そのブックオフにはどういうわ…

Le C. V. de Dieu

2008年にフェミナ賞を受賞したことも記憶に新しい、ジャン=ルイ・フルニエのユーモア小説。フェミナ賞の受賞作『Où on va, papa ?』がいかにも重たそうなテーマを扱っていたので敬遠していたのだが、この『Le C. V. de Dieu』はタイトルからして既にユーモ…

César

マルセル・パニョルによるマリユス三部作、とうとう最後の一作。結局この三部作を読み終えるのに丸々一月も費やしてしまった。 Cesar 作者: Marcel Pagnol 出版社/メーカー: Distribooks Inc 発売日: 2001/01 メディア: マスマーケット この商品を含むブログ…

来たるべき蜂起

おそらく今年最もショッキングな出版物の一つに数えられるであろう、彩流社の先月の新刊。『不純なる教養』に紹介されていたことから手に取った。 来たるべき蜂起 作者: 不可視委員会,『来たるべき蜂起』翻訳委員会 出版社/メーカー: 彩流社 発売日: 2010/05…

不純なる教養

大学生の頃、僕にとって重要だったのは授業に出席することではなく、喫煙所において彼の話を聞くことだった。そんな僕の人生を徹底的に狂わせた男、白石嘉治氏による初めての単著。 不純なる教養 作者: 白石嘉治 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2010/04/23…

お気に召すまま

最近長篇小説ばかり読んでいたため無性に読みたくなったシェイクスピア。タイミング良く、友人がこの本を読みたいと話していたことを思い出した。 シェイクスピア全集 (〔21〕) (白水Uブックス (21)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志 出版社/メ…

原子力都市

『無産大衆神髄』と『愛と暴力の現代思想』で知られる在野の思想家、矢部史郎の最新刊。 原子力都市 作者: 矢部史郎 出版社/メーカー: 以文社 発売日: 2010/03/12 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 22回 この商品を含むブログ (12件) を見る 矢部史郎『…

怪奇小説が好きならこれを、と友人が強く薦めてくれたデュ・モーリアの短編集。とにかく「モンテ・ヴェリタ」を読んでくれ、と言われ手に取った、初めてのデュ・モーリアである。代表作とされる『レベッカ』を読まずに、短編集から入ってしまった。 鳥―デュ…