Riche Amateur

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分でないことの告白である」 ――フェルナンド・ペソア         

新・百人一首

 すこしあいだが空いてしまったものの、相変わらず短歌に関連した本ばかり読みつづけている。なにも知らない分野なぶん、インプットが非常に多いわりには、得たものをろくに吟味・反芻できていない気がしていて、じつは『現代秀歌』の記事を書いている最中に思いついた、掲載短歌をノートに筆写する、というのを実行していたのだ。いろいろな歌人のたくさんの歌が紹介されている本を読むときには、こうでもしないとどんどん記憶が混乱していってしまう。ノート一ページにつき歌人一人というルールを設けて、出会った瞬間に感じた好き嫌いはいっそ度外視し(いつか魅力がわかるようになるかもしれないので)、『現代秀歌』に掲載されていた百人の歌人の短歌はすべて筆写した。そうすると、『現代秀歌』の場合は歌人一人につきだいたい三首くらいしか紹介されていないので、ノートは下半分以上がまっしろなページが延々と続くことになる。そこで、別のアンソロジーの出番である。選者が異なる別のアンソロジーを読めば、同じ歌人でもべつの歌が「代表作」あるいは「秀歌」として掲載されている可能性があるのだ。筆写二冊目にはうってつけの本が、手もとにはあった。

岡井隆・馬場あき子・永田和宏穂村弘『新・百人一首  近現代短歌ベスト100』文春新書、2013年。

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現代秀歌

 現代短歌に熱を上げはじめたわたしに、友人が読書ガイドとして薦めてくれた一冊。初めに書いてしまうと、これは人生を変える一冊である。いや、ほんとうに人生を変えられるかどうかは、これを読み終えた読者のその後次第なのだろうが、ここにはもう一生困らないほどの数の歌人たちが紹介されているのだ。同じく岩波新書から刊行されている『近代秀歌』の好評を経て書かれた、永田和宏による現代歌人百人一首

現代秀歌 (岩波新書)

現代秀歌 (岩波新書)

 

永田和宏『現代秀歌』岩波新書、2014年。

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惑亂

 書肆侃侃房が刊行している「新鋭短歌シリーズ」のうち、今年の九月に刊行されたばかりの最新刊。じつは著者の堀田季何さんには、この第一歌集が刊行されるよりもずっと前、わたしが短歌の魅力に気づくよりも前に、直接お目にかかって話をする機会があった。しかも、先日久しぶりに日本に帰った折り、たまたま友人を訪ねていった書店にて、偶然にもこの本を上梓したばかりの歌人と再会することまでできたのだ。初めて会ったのはわたしがいま住んでいる中東の砂漠でのことだったので、それはまさしく奇跡としか言いようのない再会だったのである。わたしが大喜びで書店に並んだばかりのこの歌集を購入したのは、言うまでもない。

惑亂 (新鋭短歌シリーズ)

惑亂 (新鋭短歌シリーズ)

 

堀田季何『惑亂』書肆侃侃房、2015年。

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愛する源氏物語

 ずいぶん唐突に短歌にはまってしまったことを隠そうともしない本ブログではあるが、じつは現代短歌への関心が高まるにつれて、「現代」と断言するには数十年古い、戦後と呼ばれる時代に生きた歌人たちの短歌、そしてもっと前、明治時代に詠まれた近代短歌、さらにもっともっと遡り、平安朝などの和歌にまで、関心が広がっていっている。今回手に取ったのは和歌に関する本である。それも『源氏物語』の作中に登場する和歌の魅力を、『サラダ記念日』によって現代を代表する歌人となった俵万智が伝える、というもの。

愛する源氏物語 (文春文庫)

愛する源氏物語 (文春文庫)

 

俵万智『愛する源氏物語』文春文庫、2007年。

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タンジブル

 またしても書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」より。短歌に興味を持つようになったばかりのわたしのような読者にとって、これほど手に取りやすい選集はない。解説を含めても200ページに満たない厚さで、1ページあたりの掲載歌数は二首から多くても五首程度。肩肘張らずに開くことができる。現代短歌の魅力・盛り上がりを伝えようとする出版社の意気込みが感じられるすばらしいシリーズで、おかげで短歌がずっと身近なものになった。

タンジブル (新鋭短歌シリーズ2) (新鋭短歌 2)

タンジブル (新鋭短歌シリーズ2) (新鋭短歌 2)

 

鯨井可菜子『タンジブル』書肆侃侃房、2013年。

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緑の祠

 先日の木下龍也『つむじ風、ここにあります』や陣崎草子『春戦争』につづき、またしても書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の一冊。短歌を読むのが、いまとても楽しい。

緑の祠 (新鋭短歌シリーズ10)

緑の祠 (新鋭短歌シリーズ10)

 

五島諭『緑の祠』書肆侃侃房、2013年。

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春戦争

 穂村弘の『ダ・ヴィンチ』誌での連載をまとめた本、『短歌ください』に教わった歌人。ほかのたくさんの歌人の作品とともに掲載されていた彼女の歌を最初に読んだときには、作為的というか、言葉ありきで詠まれた歌が多いな、という印象を受け、正直あまり魅力的には感じなかったのだけれど、何度も採用されていた彼女の歌のうち、以下の一首を見た瞬間、言葉ありきなんじゃない、自分は間違っている、と思った。

  ごーごーと燃えてる屋敷のきれいさを忘れないまま大人になりたい(53ページ)

 とはいえ、確信はあったものの、自分がどんなふうに間違っているのかまではわからなかった。だから彼女がすでにこの第一歌集を刊行していると友人が教えてくれたとき、慌てて手に取ったのである。

春戦争 (新鋭短歌シリーズ7)

春戦争 (新鋭短歌シリーズ7)

 

陣崎草子『春戦争』書肆侃侃房、2013年。

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はじめての短歌

 穂村弘慶應大学でおこなった「世界と〈私〉を考える短歌ワークショップ」の講義録。とても薄いうえに字の大きな本で、出版社はなんと実用書で有名な成美堂出版。それだけでも本の性格が伝わってくるくらいだが、『短歌の友人』などで語られていた穂村弘流の歌論の、手に取りやすいダイジェスト版となっている。

はじめての短歌

はじめての短歌

 

穂村弘『はじめての短歌』成美堂出版、2014年。

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短歌ください その二

 とっくに読み終えていたのにいつまでも感想を書かずにいた、穂村弘の『ダ・ヴィンチ』誌上での連載、『短歌ください』の書籍化第二弾。テーマにもとづく歌の読者投稿をほむほむが選び、コメントを付ける、という、とても幸福な本。

穂村弘『短歌ください その二』メディアファクトリー、2014年。

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つむじ風、ここにあります

 穂村弘の連載『短歌ください』の常連投稿者でもある、木下龍也による第一歌集。新進気鋭という言葉がぴったりの、自分よりも二つも若い青年が二年も前に刊行した歌たち。

つむじ風、ここにあります (新鋭短歌シリーズ1)

つむじ風、ここにあります (新鋭短歌シリーズ1)

 

木下龍也『つむじ風、ここにあります』書肆侃侃房、2013年。

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